Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
905 / 1,142
- 26章 -

- クリスマスおまけ① 睦×聖 -

しおりを挟む


意識は完全に市ノ瀬からそれており無意識に見つめ続けてしまっていた恥ずかしさに安積はパッと視線を前に移した。


「……あの、睦月?」

「なに?」

「手…」

「あぁ、危ないと思って」


知らず知らずの内に人目も憚らず腰に回されていた手に言及すると何もなかったかのように離れていく。端から見れば、腰に手を回されジッと見つめているなどという居た堪れなさすぎる姿になっていたと思うと羞恥心で顔が赤くなるのを感じるが…

少しだけ寂しい気持ちも沸き上がってしまうのがなんとも複雑な所だ。

帰宅後そんな気持ちも吹き飛ぶ程に2人きり盛大にクリスマスを祝い、幸せムードに包まれたリビングには2人の屍が転がっていた…。


「あー…幸せ…食い過ぎた…」

「……暫く節制しないとなぁ…太る」

「見てみて、めっちゃ食ったけどあんま腹出てないw 筋肉ついたかも!」

「……ほんとだ」

「ちょー、まってまってっ、くすぐったいww」


並んで寝っ転がりながらスッと服の中へと潜り込んだ手が優しく腹筋を撫でる。一瞬焦り茶化して返したのも束の間、予想に反しその手は動きを止めじわじわと伝わってくる体温が心地良い。

しばしその温もりを堪能していたのだが一向に動きを見せない手にどうしたのかとソロソロと市ノ瀬へと視線を移すと…

『…あれ、もしかして』

薄い目蓋が眼球を覆い隠し、綺麗な睫が行儀良くお辞儀をしていた。


「…睦月?」

「………」

「ぉーぃ?」

「ぁっ、ぁあ……一瞬落ちたわ」


自然と落ちた瞬の眠りから目覚めると、開眼1番、真隣に寝転び自分の名を呼ぶ恋人の姿が目に入る。

『…あぁ、良いな、こーいうの』

押し寄せる幸せに堪らず安積を抱き寄せギュッと力を込めた市ノ瀬は、再びその手から力を抜き肩におでこを預けると再び睫を落とした。


「眠い?」

「……お前と引っ付いてるとムラッとするんだけど」

「おい、選べ言葉」

「でもなんかホッとして眠くなる」

「……そ、そう?」


『どうしたっ!?珍しく甘えん坊だなっ!?』

向かい合うように体を横向きに起こし市ノ瀬の頭を抱き抱えると、相当眠いのか抵抗するでもなく大人しく収まり静かな呼吸を繰り返している。


「ねぇ、きょう、帰る?」

「……いや、明日帰る」

「そう、分かった。ちょっと待ってて」


すっぽりと腕の中に収まる頭を2度程撫で束の間の名残惜しさを振り切り立ち上がった安積は寝室へと向かい、敷き布団を両手に抱えると再びリビングへと戻った。


「ごめん睦月、ちょっと避けて」

「……え、なに?」

「今日はこのままごろ寝しよう!怠惰を貪ろうw」

「怠惰って…」

「脳が震えるーww」

「…黒い手に捕まるのは嫌だなぁ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...