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- 26章 -
- 冴ゆる星 -
しおりを挟む雪だまりを手荒い用の水道で溶かしている様子に言葉の意味を察っすると、絶妙に生々しい表現になんとなく気まずい空気が流れる。
後片付けまでさせてしまうなんて気のきかなさに落ち込みかける植野だったが今はそれどころじゃない。
「これっ!!これ飲んでっ!!」
「…お茶? これ買いに行ってたのか?」
「そうっ!」
「なんで急に?」
動くことすら気だるいはずのあのタイミングで、わざわざ何故こんなものを……?
急に渡された飲み物や言葉の意味が分かりかね、取りあえず差し出されたお茶を受け取り暫し眺める。
「いやっ……だって、ほら…気持ち悪いでしょ…その、不味かっただろうし…口濯ぐでも飲むでも、お茶ならさっぱりすると思って」
「…………」
「……ごめん」
『気持ち、悪い?………あぁ、あれか』
植野の行動を漸く理解しなんと言葉を返そうか頭を働かせるが、もともと感情を伝えるのが得意ではなく良い言葉が思い浮かばない。
落ち込んでいる植野に何も気にする事はないと伝えたいのだけれど…
だがきっとどんな言い方にってしまったとしても植野なら本質を理解しようとしてくれるはずだと、伝わりづらいだろう事を覚悟で口を開いた。
「まぁ、美味い美味くないで言えば、美味くはなかったし」
「で、ですよね……」
「あまりよくない事ってのも分かってたし…飲むつもりもなかったんだけど」
「ごめん」
「でもなんか、これもお前なんだって思ったら吐き捨てるのもなんか嫌で」
「………」
「お前の全部が欲しいとか言うつもりもないし、むしろ要らないんだけど…」
「えっ!?」
『あぁ、今の言い方は語弊を招くな…』
要らないというよりは、自分だけの自分と言うのも大事にして欲しい。誰かありきで生き、万一1人になった時、辛くなるのは植野自身なのだから。そんな思いから出た言葉だったが、要らないの言葉は適さなかったかもしれないと補足を続ける。
「…誰かありきの生き方はしんどくなるだけだろ」
「あ、あぁ……そう、かな?」
「そうだよ」
甘い雰囲気に急に落とされた鈴橋の現実的な言葉に、ふわふわと定まっていない気持ちがギュッと引き締まる。その言葉の意味はまだうまく飲み込めて居ないけれど、自分を思っての事だと言うことはなんとなく分かる気がする。
頷き肯定を示し、まだなにかを伝えようとしてくれている鈴橋の言葉に引き続き静かに耳を傾けた。
「でも……なんて言えば良いのか分からないけど」
「ぅん」
「俺が貰える……お前があげても良いと思えるものは、全部欲しいと思う、ので……だから
…………ご馳走、さま?」
「…………」
「…あぁ、嫌だったら悪い。もうしない」
「嫌、では、ない、のですが……」
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