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- 26章 -
※- 冴ゆる星 -※
しおりを挟む2人分の荒く乱れた呼吸が静寂の中に響き、名残惜しそうに最後の一滴すら吸い上げられると全身が震えるようなくすぐったさに息が漏れた。
ハンカチで丁寧に拭き取られた後、伸ばした腕の中に背中から預けられた鈴橋の体を抱き締め脱力したまま空を見上げる。
『あぁ……今、凄く…すっごく、幸せだなぁ』
ーでも
「……ごめんね、がっくん」
「…なにが?」
良かった。良すぎたのだ。
それ故、その瞬間思わず止まってしまった手に鈴橋の手が重ねられ共に動かされた事にわりと凹んでいた。
直前に止められる不快感がかなり苦しくもどかしいのは勿論分かっている。中にはそれが良いと言う人も居るけれど鈴橋がそうだとは限らない。
それに、余裕もなくそのまま中に……
中……に?
「……あ、れ?」
「なんだよ、さっきから」
「がっくん?」
「だから、なに?」
気だるそうにしているが、はっきりと言葉を喋っている。うまく動かない頭をフル回転させ先程からの鈴橋の行動を冷静に振り返りー
『っ!?』
ほぼ確信をついたそれに寄りかかる鈴橋の背を離し勢い良く立ち上がると、戸惑いの顔が植野を見上げた。
「ちょっ…」
「どうした?」
「ちょっと待っててっ!!」
「は?」
慌てて遊具を降りどこかへ走り去っていく植野の後ろ姿をなにがなんだか分からないまま見送った鈴橋は、溜め息をつきながら前屈みに倒れ込むと冷たい雪へとおでこを押し当てた。
熱い
熱い
火照った体がまだ冷めてくれない。
再び大きく溜め息をつき自己嫌悪に陥る。
植野が何度も止めようとして居たのにも関わらずこの前同様歯止めの効かなかった自身の行動に頭が痛くなる。
我慢に歪んだ植野の顔に、苦しそうに漏れ出る吐息まじりの声に、戸惑いオドオドとするくせに時折のぞかせるオトコの部分に、理性が外れるあの瞬間に…
どうしようもなく感情が揺さぶられてしまうせいだ。
自分がこんなにも理性を効かす事が出来ない人間だとは思っていなかった。
「……最悪」
激しく自己嫌悪する心に相反して心地よい疲労感に包まれる体がなんとも言えない罪悪感を生じさせる。
起き上がる気力もなく、おでこで雪を削りながら先程まで自分が居た場所へと何気なく視線を向けた。
「………はぁ」
微かに香る情事の跡が自己嫌悪に拍車をかける。痕跡を隠すため気だるい体を持ち上げると“雪”をかき集め遊具を降りた。
「あっ!こんな所に居たっ!? 探したよっ!」
「あぁ、悪い」
「なにしてるの?」
「……証拠隠滅」
「証拠って… あっ、あぁ……ごめん」
「別に……自分のだし」
「………」
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