Pop Step

慰弦

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- 26章 -

- Merry Christmas -

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後回しにして上手く時間を作れなかったら身も蓋もないのだけど、ここで渡すって言うのもムードの欠片もあったもんじゃない。

『どうしよっかなぁ…』


「ここのうどんってさー」

「がっくんって食べ方綺麗だよね」

「は?」


それとなく鈴橋を眺めつつ渡すタイミングを考えていた筈が、背筋を伸ばし行儀良く食べ続けている姿に思わずそんな言葉が飛び出してしまった。

言葉を遮られた事か脈絡もなく飛び出した言葉に対してなのかは分からないが、少しばかりの不満げな色を含ませた懸念の目を向けられ申し訳なくなってしまう。


「ごめんごめんっ!あまりに綺麗だったからついw」

「…そうか?気にしたことなかったな」

「誇って言いと思う!w それで?うどんがどうかしたの?」

「あぁ。まぁ、全然対した話じゃないんだけど」

「そんな何でもない様な事が幸せだったと思うって思うと思うんだよ!」

「……ここのうどんさ」


『流されたっww』

1口お茶で喉を潤してから少量のうどんを持ち上げ汁につけると、正しくなんでもないように聞き流した鈴橋が繁々とそのうどんを眺めた。


「弾力も凄くて、味も美味しいんだけど…」

「うん」

「いつ飲み込んだら良いのか分からなくて」

「……うん?」

「提供早い所でって選んだのに咀嚼に時間かかって…本末転倒だったなって思って」


『…なにこの子っ!!』

しゃんと背筋を伸ばして対した雑談もせず、真剣な顔で良く噛み行儀正しく食べるその裏で…
“これいつ飲み込めば良いんだろう?”
なんて考えながらもぐもぐしてたなんて……

『可愛いでしょっ!? 尊いっ!!』

見ようによっては欠点とも言えるそんな不器用な所でさえ、新しい所を発見する度にどんどん自分を惹き寄せていってしまうのだからこれはもう彼の才能だ。


「…あぁ、もうこんな時間か。待たせて悪い。なるべく急いでかき込むからもう少し待っててくれ」

「そんな無理しなくてもw食べきれなさそうなら少し食べようか?」

「…いや。食べさし渡すのは申し訳ない、というか子供じゃないんだし、自分の頼んだ分は食べないと」

「本当にもー真面目なんだからっw気にしないで良いよそんなん。残しちゃうより良いでしょ?」

「それは、そうだけど………悪い」


チラリと時計を見ていくぶんか悩む素振りを見せた後、鈴橋から遠慮がちに寄せられた盆から自身の皿へと取り分ける。

責任を持って自分で食べきる事と食べ残してしまう事とを天秤にかけての決断だろう事がありありと見てとれるそんな様子に、どこまでも真面目だなと好感を持つと同じくして、なんとなく甘えてくれた気がして嬉しくもなる。
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