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- 26章 -
- 幸せの貌 -
しおりを挟む「このタイミングで言う?」
「あっ、えっと…その、困らせたならごめん。別に…そんな深い意味はないんだけど」
「…ないんだ?」
「………」
今の状況でのこんな否定は自身でもちょっと苦しいと思うけれど、自分のそんな期待に困らせてしまったのかも、そのせいで帰る選択肢をとられてしまうかもと思うと否定せずには居られなかった。
「でも着替えないしなぁ」
「あっ、昨日着てたやつ乾燥機突っ込んどいたからだいっ…じょーぶ…」
「へぇ。準備良いじゃん」
「いやっ、でもそのっ、お前も疲れてるだろうし無理しなくても大丈夫だからっ…!」
準備良いじゃんという何気ない言葉でさえ、微かにこもった含みを感じ取られてしまっているように聞こえ羞恥心で居たたまれなくなってしまう。
「あー…まぁ流石に今日はちょっと疲れたし…無理しないことにするわ」
「そう、だよな… じゃぁ、バス停まで一緒に行くからっ!!すぐ準備してくー」
「いやいや、そーじゃなくて」
「ぅん?」
「無理して帰るの止めるって事。今日は結構歩き回ったし、もう1歩も外出歩きたくない」
なんだか期待して落とされて上げられるようなやり取りが多い気がして常に気持ちが忙しい。自分が早とちりしすぎて勘違いしているだけなのか、敢えてそうなるような言い回しをしているのかは分からないが…
どっちにしろ、まだ一緒に居られるというのを嬉しいと感じている事には間違いはない。
「……そ、そっか!そっかっ!!分かった!!」
「もう寝る準備するか?」
「うーん…睦月は眠い?」
「そんなでも」
それなら直ぐに寝てしまうのは勿体ない。
折角一緒に居られる長い休みなのだから。
市ノ瀬の手を引くと軽い足取りでソファーへと向かった。
「じゃぁ、もーちょっとまったりしようよ!明石家とか、なんか特番やってるかもだし!」
「それ明日じゃね?」
「そーだっけ?まぁ、どっちでも良いでしょ!なんでも良いよ、見るもんなんて!」
退屈な映画だろうが、つまらないテレビだろうが、そんなのどーでも良い。一緒に居られる事に意味があるのだから。
並んでソファーへと座り適当なバラエティー番組を映すと、時折突っ込み一緒に笑い、穏やかで幸せな時間を過ごす。
穏やかで、幸せな、時間を…
『おっ、落ち着かない…』
いつもならこんな何気ない日常を共に過ごす事に幸せを感じているはずなのだけれど、今はテレビの内容など全くもって頭にも耳にも入ってこず、隣に座る市ノ瀬の方が気になってしかたがない。
『いや、しょうがないじゃん?
クリスマスイブなんて日に
ようやく想いが通じ合って
ようやく付き合った恋っ…恋人と
こんな距離でまったりしてたら…
きっと誰だって……
きっと……』
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