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- 26章 -
- 幸せの貌 -
しおりを挟む『感情どこ置いてきたよ…』
先程までの空気を一変させた冷ややかな声色の返答に尻込みしそうになるけれど、なんだか逆に冷静になってきた。1つ深呼吸をし市ノ瀬を見上げるがやはり市ノ瀬が此方をみる気配はない。それでも、と静かに口を開く。
「冷静ってなんだよ。別に昨日今日で決めたんじゃない。観覧車ん時からずっとずっと、ちゃんと考えて決めた事だよ。勝手な事ばっか言うなっ」
「……勝手、って。別に俺はー」
「さんざん好き勝手に優しくして馬鹿みたいに甘やかしてっ!しんどい時は頼みもしないのにずっと一緒に居てくれて、いつでも見方で居てくれて背中押してくれて、手ぇ貸してくれてっ!そんなんしてっ、全力で好きにさせたのはお前じゃんっ!」
「………それは」
「しんどいんだよもうっ。考えるだけで頭おかしくなりそうなくらいドキドキして、考えないようにしても勝手に頭に入ってきて落ち着かないし、他に考えなきゃいけない事があってもなんかいつの間にかお前の事考えちゃってうまく行かないしっ!」
冷静になってきたなんてどの口が言ったのだろう。
先程まで良く分からなかったこの気持ちは、きっと悲しみから生まれた苛立ちだ。
変な所で冷静に回る頭はあるのに、苛立ちから生まれる言葉が次々と涌き出し止まらなくなってしまう。
「学校とかっ、どっかで遊んだ後とかっ、とかっ、バイバイするだけで訳分かんないくらい悲しくなってまたすぐ会いたくなって、でも会えなくて寂しくなって、帰らないで欲しいとか思っちゃったりしてっ!うだうだしてなにも言えない内に俺の事なんてどうでも良くなったらどうしようとか、なんかしちゃって嫌われたらって思ったらめっちゃ怖いしっ、なんかもう色々疲れたんだよっ!」
「…落ち着けよ。そんなわけないだろ」
「そんなん分かんないじゃんっ!好きになるって幸せなはずなのに好きになればなる程不安になったり悲しくなったり、辛いんだよっ!でもこれ以上好きにさせないで欲しいなんて思えなくてっ、もしお前が離れて行ったらって思ったらもっと辛いしっ!!」
「………」
「あれこれ無駄に不安になったりするのはいつまでも返事を先送りにしてる俺が悪いんだってのは分かってるよっ!!けど言う勇気がなくてっ…
だけどもう手放せないんだよっ…お前が俺にくれる全部がっ!お前と居る時間とかっ、お前自身が、もう手放せなくなっちゃったんだよっ…!」
『なんか言えよ、馬鹿っ…』
告白を流され背中を向けた市ノ瀬に不安になっていたくせに、先程とは違い黙ったまま自分を見つめる視線に居たたまれなくなってしまう。
意気地無しすぎて嫌になる。
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