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- 26章 -
- 幸せの貌 -
しおりを挟む「ほんとかよっ!?そうは思えないんだけど!?」
「本当だって。素直なのも手伝いにまで礼を言える優しさも、周りを笑顔にさせんのも。今となんも変わってねぇんだなって」
「そっ…う、かな?」
そんな会話を続けながらも切っ掛けを探していく。
色々あってもう伝えることは難しいと思ったけれど、なんとなく今なら行ける気がして…
ここで迷っていてはまた無駄に悩んでしょうもない時間を浪費してしまうだけだ。
『切っ掛け…きっかけ……』
例えば、そう。
目の前の人が曲がり角を曲がったら
次にすれ違う人と目が合ったら…
雪が…
はらはらと降る、この沫雪が止んだら…
「そうだよ。俺はお前のそう言う所がー……」
「ん? どうした?」
不自然に止まった市ノ瀬の声に足を止めると、黙り込んだままとある店先のショーウィンドウを見つめていた。なにをそんな真剣に見ているのかと店前に張られた張り紙へと目を走らせる。
「…なにこのお店? トートバッグ、マグカップ、ブレスレット、ピアス等、オリジナルグッズ作れます…て、なにこれっ!楽しそうっ!こんな所あったんだ!」
「やっぱ、こう言うの好きだよな」
「うんっ!」
「本当はさ」
「うん?」
「今日予約してたんだよ、この店」
「……え?」
『予約、してた??』
過去形な言い回しをしたと言うことは…それで考えられる事なんて1つしかない。
自分が約束を破ってしまったせいで、自分の為にとわざわざ予約までしてくれていたのに間に合わなかったのだと。
『もっと早く言ってくれればー…いや、そうじゃない。言った所で俺が困るって分かってたから…』
「ごめんっ!!」
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「…でも」
「予定通りにいかない事だってあるだろ。だいたい、謝らせる為に言ったんじゃねぇし」
「じ、じゃぁ明日っ!明日はっ!?」
「明日も予約埋まってるから」
「……ごめん」
「だから、来年来よう」
「…え?」
「って、言いたかっただけだよ。嫌か?」
「そんなわけ、ないじゃん…」
「じゃぁ、決まりな」
こんなにも胸が締め付けられるのは、浮かんだ優しいその笑みが異常な程に眩しく見えてしまうのはきっとこのイルミネーションのせいだ。
いや、本当にそうなのだろうか?
『あぁ、もう…』
なんだってこうなんだろう。
贈り物だったはずの時間も、自分の為ではなく相手の為にと使ってくれる。
食事の予定もこのお店の事も少しも責めることはなく、約束を果たせなかったという罪悪感すら全て次の約束の提案で打ち消してくれる。
それにー
『来年って、何ヵ月先の話してんだよ。
なんで、そんなずっとずっと先の予定に、当たり前に俺が居るんだよ。なんでー…』
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