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- 26章 -
- 幸せの貌 -
しおりを挟む「もうちょい、下向いてろ」
「うん」
「なんなら目瞑ってろ」
「えっ、それはちょっと怖いなっ!?」
「大丈夫だって。腕引いてくし」
「えぇーー(;´A`)」
安積の手を引きながら2階に位置する改札を出て出口へと向かいつつ、徐々に見えてきた思っていた以上の光景に思わず立ち止まると踵に衝撃が走った。
「痛ってっ」
「ごっ、ごめん…でも急に立ち止まられても止まれないって」
「ちゃんと前見ろよ」
「前見ろって…目瞑ってろって言ったの睦月じゃん」
「……本当に瞑ってたのお前?律儀なやつだな」
「えぇー!?」
立ち止まった市ノ瀬に気がつかず踵をふんずけ文句を呈されるが、安積からしたら言われた通りに目をつぶって歩いていただけであり文句も褒め言葉もなんだか少し納得がいかない。
けれど電車の中で言われたお楽しみでという言葉にどこに連れていってくれるのか楽しみでもあり、折角ならぎりぎりまで見ないでおきたかったという気持ちも本心だ。
『まだ、良いって言われてないし…』
会話をしながらも開けるタイミングが掴めないのか、目を瞑ったままの安積の素直さに市ノ瀬の顔には笑みがこぼれた。
『まったく、素直さすぎんだろ』
「まぁ、ここまで瞑ってたんなら、せっかくだしもうちょっと頑張れ」
「おう」
安積を誘導しつつ駅構内を出ると駅周辺を見渡せる改札階外のエントランスはやはり人気で多くの人で静かに賑わっており、それでも無駄に広いおかげで空きスペースはまだあった。そこまで足を進めると安積の手を手摺まで持っていく。
「着いた?」
「おう」
「目、開けても良い?」
「あぁ」
「じぁー…あぁ、でも待って!なんか開けるの勿体ない気がするっ!!」
「は?」
「このっ、なんてゆーか、目を開けたら何があるんだろう!?ってわくわく感が終わっちゃうのが勿体ないなってっ!」
「勿体ないって…」
なんだか好物を前にして自ら待てするような姿に微笑ましさも感じるが、目を閉じている横顔に少しばかり悪戯心も芽生えてくる。
「…まぁ、分からなくもないけど。でもいつまでもそーしてる訳にもいかねぇだろ」
「それはそうなんだけどねっ!!見たいっ、見たいよ!?けど見たくないっ!!けど見たいっ!!」
「いい加減にしねぇとちゅーすんz」
言い終わる前にぱっちりと開いた目は眼前に広がる景色に、感覚的にも物理的にも一瞬にしてキラキラと光る。
『本当に素直なやつ』
色々と。
“したくて言う” というより、このやり取りは最早定番のジョークとなりつつある。可愛いらしこれはこれで楽しいので問題はないのだけれど。
眼前に広がった光景を、驚きと感動が入り交じった目で食い入るように一望していた安積が、光を全身に受けながら市ノ瀬へと振り返った。
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