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- 26章 -
- 幸せの貌 -
しおりを挟む『まぁ、そうだよな。コイツが気にしてないわけねぇか…』
今朝立てた計画や約束、時間と言う贈り物は結果的に頓挫する事となってしまった。しょうがなかったにせよ、安積がしょうがなかったで済ませられる人間ではないのは分かっている。
『なんなら無駄に紆余曲折させて自分のせいだとか思ってそうだな』
班乃姉と偶然にも出会わなければ今日は約束通り過ごせていた筈であり、正月にはいつも通り3人顔を会わせていた筈だ。嘘をついて外泊していたのも家族に心配かけさせまいという班乃なりの気づかいだったのだろうし、偶然の悪戯で誰が悪いという話ではない。
『ま、嘘つくのは褒められた事じゃねぇけどな』
なにはともあれ班乃も市ノ瀬も安積を落ち込ませるのは本意ではなく、なにも今日の予定が“全てが駄目になってしまった”わけでもないのだから、そこまで落ち込む事でもないのだ。
「安積」
「ん?」
「明日予定は?」
「…特には」
「じゃぁ、飯作るとかは明日にするとして」
「明日?」
「駄目か?」
「いやっ、そんなわけないじゃんっ!」
「じゃぁ、それは明日な。で、行きたい所があるって言ったの覚えてるか?」
「もちろんっ」
「今から行こう。まだ間に合うし」
半分は。
「…良いの?」
「その返答おかしくねぇか?」
「良いよっ!!」
「せっかくだから目的地はお楽しみで。だから着くまで寝てろ。なんならアナウンス聞こえないくらい爆睡しててくれ」
「……ぅん」
「おやすみ」
「ぅん…ありがと、睦月」
小さく鼻をすする音が聞こえたのは聞かなかった事にし、うつむき目元を擦るとなにかを求めるように2人の間に落とされた安積の手に、来た時同様手を乗せると鞄を被せた。
暫くして小さな寝息が聞こえてきた頃。
電車の揺れに負け隣に座る女性へと傾いた安積の頭をすんでで引き寄せると、仕草だけで謝罪し自分の方へと引き寄せた。
知らない人に寄りかかられるのはいい気分ではないだろうし、これはこれで市ノ瀬にとってラッキーとも言える。
起こさないように携帯を取り出しブックマークを開くとHP上の今日と明日のカレンダーを開き、全てに✕印が付いているのを確認するとブラウザを閉じた。
「顔、まだあげるなよ」
「うん」
目的地間近のアナウンスが終わると安積を起こし、駅名を確認出来ないよう下方向を向かせたままこけない様に腕を掴んで歩く。
今から連れていこうとしている所を知らないならここまでしなくても良いのだけれど、最寄り駅からそんなに離れていない場所である為知ってる可能性もある。
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