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- 26章 -
- それは白く輝く -
しおりを挟む手を振り改札を出ていく班乃の姿を見えなくなるまで見送り、再びホームへと戻った2人は設置された椅子に並んで座り電車の到着を待つ。
『楽しんでください、か…』
時刻は既に19時を回ろうとしている。
午前中に買い物に出てなんやかんやあって、やはりそれなりに気疲れもしたりして、疲れからか一気に疲労と眠気が襲ってくる。
探しに行こうと言ってくれた市ノ瀬の優しさに甘え班乃の居そうな所へと急ぎ向かい無事に見つけた。
その事に後悔はない。
ないのだけれど…
『もう、今からなにかやるのは無理だな。夕飯の買い物もなんもしてないし…』
市ノ瀬に対し感謝の気持ちもあるけれど彼の望みを叶えてあげる事が出来ずに申し訳ないと言う気持ちはもちろん、今日を一緒に祝う事が出来なかったと言う残念で悲しい気持ち、結局自分は市ノ瀬に貰ってばかりでなにも返せないと言う不甲斐なさ、様々な感情がない交ぜになり、気分を落ち込ませるに十分だ。
市ノ瀬が想いを伝えてくれたのはずっと前なのにずいぶん長く答えに悩み、自分の気持ちを自覚した後だって伝える勇気が持てなくて。
優柔不断で意気地なしな自分のせいで時間ばかりが過ぎていく。それでもなに一つ変わらずにいつでも向けてくれていた包み込むような優しさや愛情に、そんな市ノ瀬の好意に付け入って甘え続けて…
いつまでもそんなんじゃ駄目だと思った。
それだけじゃない。
市ノ瀬の為だけじゃない。
自分も、彼に想いを伝えたかった。
勇気の足りない自分でも
今日なら言える気がした。
でも、こんな雰囲気では言える筈もなくて。
こうなってしまったのは誰も悪くない。
そんなぶつけ処のない感情は、疲労感を余計に色濃いものにして行く。
いや、悪いのはー…
「電車、来るぞ」
「あっ、うん」
「…大丈夫か?」
「うん、ごめん。へーき」
悪いのは、自分だ。
優先順位を間違えたのかもしれない。
今日はなにがあっても市ノ瀬を優先すべきだったのかもしれない。
けれど班乃が居なくなったのを知った上で、それを無視して楽しむことなど出来なかっただろう事は容易に想像がつく。
意味は違うけれどどっちだって大切で、優越なんてつけられなくて。
『…どうすれば、良かったんだろう』
班乃を選んだ末に犠牲にしたのは
市ノ瀬との約束や、彼への贈り物全てだ。
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