Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
817 / 1,107
- 26章 -

- それは白く輝く -

しおりを挟む


「別に絶対俺を連れてけって言ってる訳じゃないけどっ…でも嘘は駄目でしょっ?…ちゃんと、せめて家族にはちゃんと言ってってよっ」

「…そうですね。心配おかけしてすいません」

「もう止めてよ? こんなことっ」

「えぇ、2度としません」

「約束だよ? 絶対だからねっ!」

「はい、絶対です」


いつも一緒にいる事の多い2人と一緒だといえば家族も安心できるかと思ったのだけれど、それは偶然によって全く逆の意味になってしまった。

再度謝罪すると安積の手を取り立ち上がらせ濡れた手袋で目をふく姿にハンカチでもと思ったのだけれど、なにかに気がついた安積がその手を掴み取り驚きと不安の入り交じった表情を自分へと向けた。

『よく気づきますね…』

安積がなにを言いたいのかは直ぐに分かった。けれどそれは安積が心配するような事ではない。


「お直し、出したんですよ」

「…お直し?」

「はい。そんな高価な物ではないのでそろそろ“綺麗” にしないとって思ってて。良いタイミングかなぁと」

「…そっか。良かった。そうだよね、メンテナンスしないとだよね」

「えぇ」


ホッとしたような表情を浮かべつつも指輪のはまっていない手を掴むその手は離れることなく、もう片方の手が覆い被さりじんわりと優しい暖かさに包まれる。


「…大丈夫?」

「大丈夫ですよ」


心配そうに見上げる目に出来る限りの笑みを返し、感謝の意を込め包み込まれていない方の手を安積の手の上に重ねるとそっと両手を離した。

そして墓石に向き直り積もった雪を払うと、“お昼時過ぎちゃいましたね” と誰ともなく呟き線香へと火をつけ供えつける。


「そんなに心配しないでください。今日ここに来たのはなにかあったからではなく、本当にこう…ただ話したいことがあって。色々とたくさん、あったので、うっかり長話になってしまっただけなんです」

「色々?」

「…えぇ。でも後ろ向きな話ではなくて、もっと前向きな感じで。学校でこんな事があったとか、こんな嬉しい事があったとか…昨日の事とか、僕でももう1度ー…」

「もう1度?」

「いえ、なんでもないです。これは、楓との秘密と言うことで」

「…そっか」


もう1度
誰かを大切だと思っても良いと思える様になれた事。
もう1度
誰かを心から好きになれた事。

それは叶える事は出来なかったけれど

間違いだってたくさん起こして
酷いことをしてしまったのにも関わらず
大切な人達が同じように大切にしてくれて
自分達の予定を擲ってまで
こんな所まで駆けつけてくれる。
なにも変わらずに側にいてくれる。

そんな奇跡が、自分を支えてくれている。

だから、もう大丈夫。
彼等が居てくれたから
彼等が居てくれるから

ちゃんと自分の足で歩いていける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...