Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
812 / 1,151
- 26章 -

- それは白く輝く -

しおりを挟む


“ 探すの手伝います ”

そう、言いたい筈なのに。
いつもなら躊躇なく言える筈なのに。

だって今日はー

“ そんなんが良いの ”

と笑った市ノ瀬の顔が頭を駆け抜ける。

今日1日は、彼への贈り物で
そうしたいって、自分だって思ってて
彼が望んでくれるなら何日だって
例え望んでくれなくてもいつだって
同じ時間を過ごしたいって思ってて

嘘じゃないけど、だけどー


「…なんか良くわかんねぇけど、心当たりあるのか?」

「えっ?」

「明が居そうな所」

「……えっと、居るかどうかは分からない、けど…1ヶ所だけ」

「そう。じゃぁ、行くか」

「えっ?」

「なに? 行かないの? 探しに」

「…でも」

「嘘ついてまで帰らないなんて普通に心配だし、探しに行きたいって思ってるんだけど。今日は1日付き合ってくれるんだろ?」

「………うん」


きっと市ノ瀬には自分が何に悩んでるのかなんてお見通しで、自分が何故班乃の居場所に心当たりがあるのかも、“ 知ってる ” の意味だって分からない筈なのに、それでもいつも見方をして決して責めずに優しい言葉を投げかけてくれる。

『ズルいだろ。こんなん、もうー』

好きになれない訳がない。


「で、心当たりって?」

「あっ、そう。それなんだけど…」


班乃の姉へと向き直った安積はその心当たりを口にしたのだがその声は小さく市ノ瀬の耳には届かなかった。しかし彼女には確かに聞こえたようで、驚いたような表情を浮かべたあとしっかりと頷く。


「じゃぁ、私は他に行きそうな場所探してみるから」

「はい。よろしくお願いします」

「…迷惑かけてごめんなさい。こちらこそ、弟の事、よろしくお願いします」

「はい、じゃぁ、お気をつけて」

「あー、待て待て」


挨拶を交わし各々別の方向へと走り去ろうとする2人を呼び止める。当たり前に分かれようとするから一瞬迷ったけれど、始めましてな訳だから知っているとは思えなくて。


「2人とも、連絡先知ってんの…ですか?」


どちらに話しかけようか迷い変な敬語になってしまったが、まぁ、良いだろう。


「一応、交換しといた方が良いと思うんですけど」


自分を見たまま固まった2人に再度声をかけると、慌てたように携帯を取り出し始めた。

『大丈夫かこいつら…ってか、本当に明の姉かよ』

焦る気持ちは分からなくもないけれどあまりの抜けっぷりにそんな感想が思い浮かぶ。

『まぁ、だからこそ明がしっかりしたのかもだけど』


「えっと、LINEで良いですか?」

「はいっ、大丈夫ですっ!」

「じゃぁ、俺が読み込むんでQRコードお願いします」

「えぇ。えっと………QR、コード」

「あっ、1回ホーム画面行ってもらって、右上の…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚されて召喚先で人生終えたら、召喚前の人生に勇者能力引き継いでたんだけど!?

にゃんこ
BL
平凡で人見知りのどこにでもいる、橋本光一は、部活の試合へと向かう時に突然の光に包まれ勇者として異世界に召喚された。 世界の平和の為に魔王を倒して欲しいと頼まれて、帰ることも出来ないと知り、異世界で召喚後からの生涯を終えると……!? そこから、始まる新たな出会いと運命の交差。

純白のレゾン

雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》 この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。 親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い

たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」 真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…? *本編:7話、番外編:4話でお届けします。 *別タイトルでpixivにも掲載しております。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...