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- 26章 -
- それは白く輝く -
しおりを挟むフライヤーで見たと言うことは、どこかのタイミングで自分達の演劇を見てくれた人と言うことだろう。しかし市ノ瀬の反応からしても自分達の知る人ではなさそうだ。
「えっと…すいません。どこかでお会いした事ありましたっけ?」
「あっ、ないですっ、ごめんなさい」
「ない、って…」
「…………」
「……………」
「あっ、そうですよね、突然話しかけられてもって感じですよねっ!?」
「そうですね」
「こらっ、睦月っ!?」
愛想もなくスバっと返す市ノ瀬に恐怖したように世話しなく目を動かす女性がなんだか可哀想に思え取りあえず市ノ瀬を諌める。
突然話しかけられて戸惑いはしているけれど悪い人ではなさそうだし、そんなに強く言わなくても…市ノ瀬本人にそんなつもりはないのだろうが人によっては萎縮してしまうのも分からないではない。
「えっと…それで、どちら様ですか?」
「あっ、ごめんなさいっ、私明の姉です。弟がいつもお世話になってます」
「……えっ、あっきーのっ!?」
と言うことは今目の前に居る彼女が、あの時事故に遭い奇跡的に何事もなく退院したというー
「はいっ! もし会えることがあったらちゃんと謝りたいとー」
「良かったっ!! お世話するっていうか俺達こそいつもあっきーにお世話になってます!! 退院されたのは知ってましたけど、お元気そうで良かったですっ!!」
「えっと…あり、がとうっ!」
『謝りたいことがあったんだけど…』
勢いの良い安積にタイミングを逃した感じはあるけれど今を逃したらもう言えるタイミングはなくなってしまうだろうと女性は勢い良く頭を下げて大きく息を吸い込んだ。
「あのっ、文化祭っ、本っ当にすいませんでしたっ!皆ずっとずっと一生懸命練習してたのに…私のせいで無駄にしてしまって…本当にごめんなさいっ!」
「えぇっ!? いやっ、別にそんなっ!?頭あげてくださいっ!! 俺はもうお姉さんが元気になってくれただけで十分すぎるっていうかっ! なぁ、睦月!?」
「あ? あぁ、そうだな。 色々とありましたけど今となっては良い思い出ですし。明も相当参ってたみたいだったので後遺症もなく無事に退院出来て良かったですよ」
『…こいつ、敬語使えたんだ!?』
普段聞くことのない言葉使いや突然の出来事にも慌てずさらっと返す冷静さや度胸に関心を覚える。そして市ノ瀬のこのいつどんな時でも堂々としていられるのは困らせられる時もあるけれど、反面尊敬する所でもあった。
「…ありがとう。良い子達ですよって、明がいつも言ってたけど、ほんとにその通り…本当にありがとう。それに、安積君」
「はい?」
「明に直ぐに病院行くように言ってくれたんだってね…感謝してます。あの子、きっとどうして良いか分からなくなってたと思うから…」
「…いえ、そんな、全然…俺、それくらいしか出来なくて」
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