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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟むしゃがみ込んでいた足を崩し寄り添うように市ノ瀬へと1歩近づいた安積は、縮こまる様に自身の体を抱え込み体育座りをした。
突然の距離感に急速に落ち着きを失くしかける気持ちをなんとか押し留めた市ノ瀬も同じように腰を下ろす…と同時に、肩に寄り添う重みに頭を抱えそうになる。
『え、なにこの可愛い生き物……』
「むつき?」
「…なんだよ?」
「ナデナデしてー」
急な甘えに心臓が止まるかと思ったけれど、瞬時にして言わんとする事を感じとり言われるがままにその頭を撫でる。
「ブルスコブルスコww」
「俺の手は電マじゃねぇっの。 チョップすんぞw」
「それは止めてーw」
『全く、寝起きから元気なやつだ』
頭を撫でる手はそのままに暫し笑い会うと再び沈黙が訪れる。触れあう箇所からじんわりと伝わる温もりがただただ心地が良い。
「雪像」
「ん?」
「せっかく作ったのにな」
「…あぁ、まぁ、しょうがないでしょ。あっきーに見せようと思って作ったんだし、もう十分だよ」
「そうかもしれないけど…」
「必要になったらまた作れば良いんだし」
「そう、だけど」
「…どうかした?」
「さぁ。分からん」
「分からんって」
消えていく雪像をしょうがないと
バッサリ一蹴してしまうその言葉が
あんなに懸命に作ったのに
簡単に失くすのを受け入れてしまうその言葉が
自分の彼に対する気持ちがなんでもないようにバッサリと切り捨てられてしまう、そんな嫌な未来を脳裏に浮かばせ無性に不安を掻き立てる。
「雪、止まないね」
「……そうだな」
「明日…さ」
「ん?」
「なにするの?」
「……明日」
「えっ、ノープラン?」
「いや……んー…」
完全にノープランという訳ではない。行きたい場所はあるのだがどうやって連れ出すか。夕飯はどうするか等、細かい所を決めきれずに居るだけだ。
「…まぁ、どっちでも良いけど」
「悪いな、誘っておいて適当で」
「あっ、違う違うっ。ごめん、言い方悪かった。そう言うんじゃなくて…ただ、その…一緒に居れるならそれだけで……十分って、意味」
「…………」
「せっかくだしさっ!昼は適当に済ませて買い物行こうよっ。色々買ってクリパっぽく飾ったり飯作ったりとかさ、どうっ!?」
「……良いなそれ。あー、でも行きたい所があるから、飯下拵えしたら一旦出掛けたいんだけど」
「全然おっけー! 楽しみっ!」
雪明かりに照らし出されるその無邪気な微笑みと、一緒に居られるだけで良いというその言葉に声が出てこない。
彼の中の自分は
いったい今どの辺りに居るんだろうか?
ただの友達?
ただの親友?
それとも、それ以上になれているのだろうか?
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