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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟む「あのな、明の為ってだけじゃねぇの。安積の為ってだけでもねぇし、俺もお前らと居るのが…まぁ、好きだから、俺がしたいようにしてるだけだよ」
「……貴方が?」
「そう。だからお礼言われる事でもねぇし、そんな申し訳なさそうにすんなよ。悲しくなるだろ」
「…そう、ですか。すいません。その、ありがとうございます」
「良いよ。分かってくれればそれで」
とは言え直ぐに変わるのは難しいだろうし、安積に対するように親身になって変わるお手伝いをするつもりもない。もしかしたら今の班乃を好きだと言う人が現れるかもしれないし。
軽く手を上げ先に行く事を伝えるとドアノブに手を掛けるが、なんやかんやとまだ伝えられて居ない事があることに気がつきその手を止めた。
「明」
「…えっ? あぁ、なんでしょう?」
振り返るとなにやらぼんやりとしていたようで、はっとしたように班乃が顔をあげ首をかしげた。
ちょいちょいダメージを喰らっていたようだけれど、それでも今日の事は班乃にとっては嬉しかったはずだから。
「誕生日おめでとう。良かったな、安積に祝って貰えて」
「…えぇ、そうですね。本当に、ありがたい事です」
市ノ瀬の言葉に“ そういえば ”が脳裏に浮かぶ。
安積からの誘いに不安はあったけれど、そんな不安はいつの間にか感じなくなっており不安に思っていた事すらいつの間にか頭から離れていた。
今まで伝える事が出来なかった事を伝えることも出来たし嬉しい言葉もたくさん貰った。自分の為にと準備してくれた数々の物が暖かく、誕生日や憂鬱な雪の日にこんなにも幸せな気持ちになれたのは彼女が亡くなってから初めてだった。
「あと俺からも、誕生日…ありがとう」
「えっ?」
「なんだよ?」
「あぁ、いえ。すいません、貴方にもそう言って頂けるなんて…ちょっと驚いただけです」
「驚いたって…これでも色々感謝してるんだけどな。お前に」
「そう、ですか…特段何かしたつもりはないんですけど、そう言って貰えて嬉しいです。それと…」
「それと?」
「安積だけじゃなくて貴方に祝って頂いたのも勿論凄く凄く嬉しいですよ。僕からも、ありがとうございました」
「…なんか言い返された気分だわ」
「そう言うつもりはなかったんですけどね」
「ほんと、良い性格」
小さく笑い合うと背を向けリビングへ戻ろうとドアノブに手を掛けた市ノ瀬だったが、今度はその腕に班乃の手が伸ばされ引き止められる。
「なに?」
「明日、頑張ってくださいね」
「……… なにを?」
「貴方の事だからなにかしら安積との予定を考えてるのでは、と思ったんですけど…」
「ぁー……まぁ」
先程安積と交わした会話が実は聞こえていたのかもしれない、と思ったけれどそうではなかったらしい。
聞こえていなかったとしてもバレて居るのではどっちだって意味はないのだけれど。
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