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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟む『いつまでもウジウジと…ダサいなぁ、もう。しっかりしろ。大丈夫。出来る、僕なら出来る』
鏡の中の自分に自給自足で叱咤激励をし、笑みを作り大丈夫と小さく呟くと水を流す音と同時にトイレのドアが開いた。
「あ、悪い。トイレ待ち?」
「えぇ、まぁ。それも、あるんですけど」
「それも?」
「ちゃんとお礼を言わないとと思ってて。その、今日この場に連れてきてくれて、3人で居る時間を作って下さって、本当にありがとうございます」
それと安積から重ねられた手に思わず握り返してしまった事も。市ノ瀬からしたら勿論気分は良くないだろう。
けれど彼の手を拒むことは出来ない。
傷つけるかもしれないし
そうでなくても拒みたくはない。
避けるのを止めて欲しいと言った市ノ瀬の言葉を忠実に実行していると言えば聞こえは良いけれど…
まぁ…ちょっとした下心だ。
しかし申し訳ないという気持ちは否めない。
感謝と共にそんな気持ちも混ざってか、小さく首をかしげ申し訳なさそうな笑みでお礼を口にする班乃に対し市ノ瀬の眉間には薄い皺がよる。
『……こいつもかよ』
と。
「なんか…」
「はい?」
「お前と安積って似てるところあるよな」
「え? そう、でしょうか?」
「なんというか…」
どうしてこうも、この2人は
してもらってしまった
感が強いのだろう
人の為には安易に動くくせに
自分の為に動かれると恐縮する
自分の価値を低く見すぎだ。
「ちょっと面倒くさい所」
「えっ、めんど……? なんか、すいません」
「いや、別に良いんだけど…」
市ノ瀬の言葉の意味を図りかねて居るような表情を浮かべ視線を落とし考え込む班乃の様子に呆れたように息を吐く。
なぜ素直に受け取り喜ぶ事が出来ないのだろう。
なぜ自分だけと思ってしまうのだろう。
「あのな、明の為ってだけじゃねぇの。安積の為ってだけでもねぇし、俺もお前らと居るのが…まぁ、好きだから、俺がしたいようにしてるだけだよ」
「……貴方が?」
「そう。だからお礼言われる事でもねぇし、そんな申し訳なさそうにすんなよ。悲しくなるだろ」
「…そう、ですか。すいません。その、ありがとうございます」
「良いよ。分かってくれればそれで」
とは言え直ぐに変わるのは難しいだろうし、安積に対するように親身になって変わるお手伝いをするつもりもない。もしかしたら今の班乃を好きだと言う人が現れるかもしれないし。
軽く手を上げ先に行く事を伝えるとドアノブに手を掛けるが、なんやかんやとまだ伝えられて居ない事があることに気がつきその手を止めた。
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