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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
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「聖にね、ごめんねって言わせちゃてさ…。それで分かったの。俺があの日の事で自分を責めて引きずったままでいるのは、俺を大事に思ってくれてる人達を悲しませる事にもなるんだって。まぁ、そうは言っても今すぐに変わるのは難しいんだけど…それでも変わりたいって思ったし、変われるって思った。…皆が居てくれるから」
小さなかまくらの暗がりにぼんやりと灯された明かりへと視線を落とし口を閉ざす班乃の横顔は、怒るでも悲しむでもなくただただ無表情で…
その顔には見覚えがあった。
彼女のお墓の前で自分達に起こった事を話してくれた時にもこんな顔をしていた。まるで自分の感情を押し殺し閉じ込めてしまっている、そんな顔だ。
『……俺、自惚れてたかな』
沢山の時間を共に過ごして、沢山話もして様々な経験を共にしてきた。自分達はもうなんでも話し合える仲だと思っていた。
でも
そう思っていたのは自分だけだったのかもしれない。
嘘偽りや気持ちを隠すも事なく、心からの本当の思いを話すには自分はまだまだ相応しくなんてなくて…
いや、相応しくないのではなく
相応しくなくなったのかもしれない。
あの時…
また大切な人を亡くすかもしれないと助けを求めて来た彼を拒絶してしまったあの時。解決したように見えても心はそんなに簡単な物じゃなくて…
気がつかぬうちに、目に見えないように、自分達の距離はずっとずっと開かれてしまっていたのかもしれない。
そんな事すら気づけずに…
『余計な事、しちゃったかも…』
このまま自分の思いを伝えても良いのだろうか?しかし班乃がそれを良く思っていないのだとしたら、伝えることでまた思いを押し殺してしまうのだとしたら、自分の言葉など迷惑でしかない。
どうしようかと次の言葉に悩んでいると、詰まる空気の中小さく息を吸う音が聞こえた。
「……彼女が居なくなってから、寂しさをまぎらわせる為だけに僕は沢山の間違いを起こしてきました。大勢の人を巻き込んで、その人達や彼女をも裏切り傷つけてきました。でもそれでしか自分を保つことが出来なくて、他にどうしようもなくて…駄目なことだと、分かっていたのに。そんな場所から貴方が、貴方だけが僕を連れ出してくれたんです」
「………俺?」
小さく頷くその仕草に、それ以上の言葉を紡ぐ事は出来なかった。
余計なことなんかじゃなかった、かもしれない。
相応しくなんてなくなかった、かもしれない。
班乃の両手に乗せていた手が向きを変えた彼の手によってそっと握らる。まだ班乃の特別で居られたという事実に胸を締め付けられ、込み上げる涙を堪えるとぎゅっと握り返した。
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