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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟む班乃に支えられ、市ノ瀬や月影の言葉で導かれていく。もちろん感謝はしているが自分ばかりが救われていく現状に罪悪感を感じるのも確かだ。
だからこそ貰った数々の優しさを今度は彼等に、他の誰かに自分が返していく番だ。それが受け取った人間の義務であり、優しさをくれた彼等への恩返しにもなると思うから。
「あのさっ!」
「はい?」
「俺、前より雪、好きになれたよっ!」
班乃の頬へと伸ばした手を膝の上に重ねて置かれていた両手へ重ね乗せると窓の外へと視線を移し降りしきる雪を眺める。
「あのね、嫌いなもの、嫌いって言っても良いんだよ」
「………」
窓を介し突然なにを?と言いたげに向けられた顔に笑顔を返す。
うまく伝えられるかは分からない。
それでも今度は自分が返していく番だから。
たとえ義務や恩返しと言う理由がなかったとしても
少しでも班乃の傷が癒えてくれるように。
少しでも辛い思いをしなくて済むように。
親友として力になりたい。
「嫌いなもの、無理して前向いて好きにならなくても良いの。嫌いだからこそ学べるものがあるんだって。だから、そのままでも良いんだよ」
空気を読んでなのかいつの間にか班乃の隣からソファーへと移動していた市ノ瀬が窓に反射して映っている。言い覚えのある言葉に反応し顔を上げたその姿に手を伸ばした安積は愛おしそうにそっと指を這わせた。
「って、偉そうに言ってるけどこれは俺の…凄くすっごく大切な人からの受け売りなんだけどね」
「嫌いなまま、ですか」
「そうっ! だけどね…嫌いなものをずっと嫌いなままで居る必要もないの。嫌いだって思う記憶以上に、好きだって思える思い出を作ってって、好きが嫌いを上回った時に素直に好きだって言える、そんな時が来たって良いんだよ」
「そう、かもしれませんね。でも僕のせいで彼女はー…なのに僕がそんな事ー」
「望んでないよ。明が苦み続けるなんて事。そうでなきゃいけないなんて事だって絶対にないし、そんな事誰も望んでない。大切な人がずっと苦しんでるなんて辛いよ。だから望んでない…俺も、明を大切に思う人達も…勿論」
桂木さんも。
そう彼女の名前を言葉にする代わりに、指を飾るそれをそっと親指でなぞった。
自分を責めるのは凄く分かる。
つい最近まで自分だってそうだった。
自分のせいで苦しめた人がいるのに
何事もなかった様に笑うなんて事
そんな事して良いはずないって思ってたし
そんな資格なんてないんだって思ってた。
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