783 / 1,151
- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟む班乃に支えられ、市ノ瀬や月影の言葉で導かれていく。もちろん感謝はしているが自分ばかりが救われていく現状に罪悪感を感じるのも確かだ。
だからこそ貰った数々の優しさを今度は彼等に、他の誰かに自分が返していく番だ。それが受け取った人間の義務であり、優しさをくれた彼等への恩返しにもなると思うから。
「あのさっ!」
「はい?」
「俺、前より雪、好きになれたよっ!」
班乃の頬へと伸ばした手を膝の上に重ねて置かれていた両手へ重ね乗せると窓の外へと視線を移し降りしきる雪を眺める。
「あのね、嫌いなもの、嫌いって言っても良いんだよ」
「………」
窓を介し突然なにを?と言いたげに向けられた顔に笑顔を返す。
うまく伝えられるかは分からない。
それでも今度は自分が返していく番だから。
たとえ義務や恩返しと言う理由がなかったとしても
少しでも班乃の傷が癒えてくれるように。
少しでも辛い思いをしなくて済むように。
親友として力になりたい。
「嫌いなもの、無理して前向いて好きにならなくても良いの。嫌いだからこそ学べるものがあるんだって。だから、そのままでも良いんだよ」
空気を読んでなのかいつの間にか班乃の隣からソファーへと移動していた市ノ瀬が窓に反射して映っている。言い覚えのある言葉に反応し顔を上げたその姿に手を伸ばした安積は愛おしそうにそっと指を這わせた。
「って、偉そうに言ってるけどこれは俺の…凄くすっごく大切な人からの受け売りなんだけどね」
「嫌いなまま、ですか」
「そうっ! だけどね…嫌いなものをずっと嫌いなままで居る必要もないの。嫌いだって思う記憶以上に、好きだって思える思い出を作ってって、好きが嫌いを上回った時に素直に好きだって言える、そんな時が来たって良いんだよ」
「そう、かもしれませんね。でも僕のせいで彼女はー…なのに僕がそんな事ー」
「望んでないよ。明が苦み続けるなんて事。そうでなきゃいけないなんて事だって絶対にないし、そんな事誰も望んでない。大切な人がずっと苦しんでるなんて辛いよ。だから望んでない…俺も、明を大切に思う人達も…勿論」
桂木さんも。
そう彼女の名前を言葉にする代わりに、指を飾るそれをそっと親指でなぞった。
自分を責めるのは凄く分かる。
つい最近まで自分だってそうだった。
自分のせいで苦しめた人がいるのに
何事もなかった様に笑うなんて事
そんな事して良いはずないって思ってたし
そんな資格なんてないんだって思ってた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説



笑わない風紀委員長
馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。
が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。
そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め──
※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。
※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。
※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。
※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

ボクに構わないで
睡蓮
BL
病み気味の美少年、水無月真白は伯父が運営している全寮制の男子校に転入した。
あまり目立ちたくないという気持ちとは裏腹に、どんどん問題に巻き込まれてしまう。
でも、楽しかった。今までにないほどに…
あいつが来るまでは…
--------------------------------------------------------------------------------------
1個目と同じく非王道学園ものです。
初心者なので結構おかしくなってしまうと思いますが…暖かく見守ってくれると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる