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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟む「あのさ、あんまり上手には出来なかったし、その…本当はちょっと迷ったんだけど、でもやっぱりちゃんと伝えたいなって思って…」
自信なさげな声に安積を見上げると、その声をそのまま表現したような自信のない目とぶつかった。
誕生日は祝わない。
遠回しだったけれど間接的に伝えたその意味を安積が分からないはずがない。祝われるような気分ではなく迷惑になるかもと思いあたるはずだ。
そしてそれは、あながち間違いではない。
祝われる気分でもなく心から喜ぶのが難しいというのは間違いなく本当の事だ。
でも、決して迷惑なんかではない。
彼が自分の為にと色々と考え何かをしようとしてくれるのを嬉しいと感じるのだって本当だ。
だからこそ気持ちのバランスがとれず安積に悲しい思いをさせるのだけはなんもしても避けたい。
不安そうにする安積に笑いかけるとどこか弱々しく微笑み返され、閉めきられていたカーテンがそっと引かれる。
眼前に広がったのは小さなかまくらの中に転々と置かれたキャンドルと、それに囲まれ照らされたー
「Happy Birthday、あっきー!」
その言葉がそのまま書かれた小さなプレートの置かれた誕生日ケーキだった。
「……これ、貴方が?」
「うん。ホントはもっとこう…生クリームぶぁーって乗ったお洒落な感じにしたかったんだけど、ちょっと難しくて。ごめんね」
「いえ、謝る事なんてないですよ。ガトーショコラ、ですね?凄く良くできてるじゃないですか。とても美味しそうです」
「ほんと?そう言って貰えると嬉しぃ!」
嬉しそうに笑った安積はちょこんと班乃の隣へとしゃがみ込み、しばしケーキを眺めつつ言葉を探すように指先をいじると静かに口を開いた。
「昨日の夜さ、聖に会ってきたんだ」
「月影さんと?」
「そう。会ったって言うか、突然来て拉致られたが正解なんだけど」
拉致られた。
自由奔放なあの人に良く似合う言葉過ぎて、困惑する安積の姿さえ容易に目に浮かぶ。このタイミングで拉致をしたということは何かしら安積に伝えたい事でもあったのだろう。
安積が雪に対してトラウマを抱える要因となった当事者同士、きちんと話すことは出来たのだろうか?
閉められた窓の先にあるケーキに当てていた焦点を近め窓に映る安積へと当てるが、薄い笑みを浮かべているその様子からは今一読み取ることが出来ない。
「そのまま聖の会社の駐車場に連れてかれてさぁ」
「…え、会社?」
「そうw 着いたら急に知らない人達…社員さん達に囲まれてちょーびびったよねw それでー」
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