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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟む「まったく、なにやってるんでしょうね、僕達は…」
「本当に、すまないと思っている」
「…それ、思ってない時に使うセリフですよね」
「思ってるってっw」
服に着いた雪を払いながら市ノ瀬を見やると、反省の色の見えない笑顔を浮かべている。
しっかりしてるように見えて意外と注意力散漫、可愛いく言えばおっちょこちょいな所は心配ではあるけれど、見ようによっては魅力なのかもしれない…のかもしれないけれど、こんな危ない魅力は要らない。
「……はぁ。まぁ、とにかく気をつけて下さいよ」
「二度あることは三度あるって言うしなぁ…」
「睦月?」
「んな怒んなよwごめんごめん、 気ぃ付けるって。さんきゅーあっきー」
気を付けるとは凡そ思っていなさそうな反応に最早呆れて溜め息しかでない。これはきっと何度注意喚起したとしても刺さってくれる事はないだろう。
その時タイミング良く母親と手を繋いだ幼い少女が側を通りすぎ、班乃は市ノ瀬に向けその親子を小さく顎で指し示した。
「次こけたら、あれ、やりますから」
「それはまじで気を付けないとな…」
少し本気の色が見えた言葉を取りあえずの妥協点とし自身を納得させた班乃は、歩きだす……前に先程から聞きそびれている事を再度聞き直した。
「あぁ、そうそう、それなー…そうだなぁ」
歩き出す前にという配慮はどうやら伝わらなかったらしい。しかし今度は振り向くことなく誰かの足跡を辿るように歩き始めた市ノ瀬は、暫し考えるように間を空け立ち止まると半分だけ体を振り向かせた。
「明日、14時、駅集合 」
「……はぁ?」
「ちなみにこれ、俺が言い出したんじゃないから」
「どう言うことです?」
「頼まれたんだよ。何するかは知らね。まぁ、そう言うことだから」
「いや、待ってくださいよ。行くなんて誰もー」
「へぇ。断わるんだ? 」
「それは…」
「断われんだ?」
「……行き、ますけど」
『本当に意地が悪い…』
市ノ瀬にそんな頼み事をしたのが誰かなんて考えなくてもすぐ分かる。分かっている事を分かった上で、こう言うことを言ってくるのだから意地が悪い。
もしかしたら3人で居られる時間を作る為の市ノ瀬なりの優しさかも知れないけれど…
特段予定があるわけではないし、あったとしても安積からの頼みを断わる選択肢はない。
『…でも』
安積がなにをしようといているかは察しがつく。自分を思ってくれる事は素直に嬉しいのだけれど。
そんな彼の気持ちに水差す事がないよう出来るのか些か不安ではある。ちゃんと笑って感謝を伝えることが出来るだろうか?
浮かび上がる不安に落ち着かない心を、静かに目を閉じて押し鎮める。
『いや、大丈夫だ』
最近少し雑になってる自覚はあるけれど、なんでもないように振る舞うのは得意だったはずだ。1日くらいどうってことない。
「じゃ、また明日」
「えぇ、また明日。くれぐれもお気をつけて」
「任せとけ。手ぇ繋ながれて歩きたくねぇからな」
「切に願いますよ、本当に」
今日1感情の籠った言葉を交わし、ひらひらと手を振りながらバス停へと無事消えていく市ノ瀬の後ろ姿を見送った班乃は、安堵か不安かも分からないため息を1つ吐き出すと自身も家路へとついた。
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