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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟む『どうなってんだよ。あいつの情緒』
何気なく見下ろした雪降る校庭。
通りすぎるクラスメイト達へと傘を大きく持ち上げ、はたまた肩を叩きながら笑顔と挨拶を振りまき小走りで校舎へ向かってくる安積の姿を捉えた市ノ瀬は小さく呟いた。
その姿からは橋の上で感じた危うさや落ち込み悩んでいた様子は微塵も感じられない。昨日の今日、正確に言えば一昨日だが細かい事はさておき、感情の起伏の激しさに驚かされるばかりだ。
それは今に始まったことではなく多くの時間を共に過ごしていく中で慣れたつもりだったけれど、どうやらそれは過大評価だったようである。
『まぁ、元気になってくれるのは嬉しいことではあるけどな…』
眼下に目撃した元気さをそのままに教室に登場した安積は空気を明るく染め上げながら、市ノ瀬の真ん前である自分の席へと向かってくる。目が合い挨拶を口にしようとした市ノ瀬だったが、なぜだか瞬時に視線を彷徨わせた安積はなにも言わずに背を向け自分の席へと座った。
「おい、どうした?」
「………」
打って変わって馬鹿みたく元気になっていたかと思いきや、今度は市ノ瀬だけを挙動不審に避け挨拶どころか返事すらしない様子に不審を抱く。
『…なんか、やらかしたか?』
記憶を巡らせてみるが昨日安積をバス停まで送ってからは通話やトークすらも交わしていない。やらかす方が難しい。というか、無理だ。
『……どっか変、とか?』
確かに今日は終業式だけだしとヘアセット諸々適当に済ませてきてしまったのは否めないが…
『確認……しとくか』
安積の態度に無性に不安になり鏡を取り出そうと鞄に伸ばしかけた手は、勢い良く振り返った安積により動きを止めた。
「あのさっ!」
「えっ? ……あぁ、なに?」
「おはようっ!」
「…はよ」
『今……?』
「それとっ」
「おぅ」
「昨日、と一昨日っ、ありがとうっ!」
「あぁ、別に」
「あとっ………」
「なに?」
「やっぱなんでもないっ!」
「はぁ??」
『なんだこいつは??』
意味不明なタイミングでの言動やバタバタと慌てたように教科書類を机に突っ込み始めた後ろ姿に困惑しつつも念のため鏡を取り出し身嗜みチェックをする。
『あ…』
鏡を仕舞おうと身を屈めたその視線の奧から何かが回転しながら近づき、机の前脚へとぶつかるとカツンと音を立てその動きを止めた。
『…サクラ』
それは棒の付いた飴玉で、なかなか見ないこの味には覚えがあった。期間限定だかなんだか忘れたけれど、大切そうに安積家冷蔵庫にずっと眠っていたもので間違いない。
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