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- 25章 -
- 幸せの相違 -
しおりを挟む「…あれ、嬉しくなかった?」
「いや、嬉しよ勿論、本当に。ただ頭がちょっと付いていってないというか」
良かった。
頭が追い付いてないだけで。
理解した上でこの微妙な反応だとしたならば、ちょっと立ち直れる気がしない。
「…さっきさ、普通養子縁組と特別養子縁組の話したでしょ?」
「うん」
「特別養子縁組が出来た時、両家からそうしないかって打診がきたんだよね」
「うん」
「特別養子縁組するって事は、安積家の戸籍から抜けて家族関係も完全に消える事になる。だから聖とも赤の他人になっちゃうんだよね。それがどうしても嫌でさ」
「…………」
「だから断った。駄目元で。でも両家とも了承してくれて、ほんとホッとしたの覚えてるよ。ごめんね、ちゃんと説明すれば良かった。家族じゃないみたいな悲しい事言わせてごめん」
その選択に葛藤がなかったわけではない。けれど弟と家族でなくなる以上に辛い事はないと…共に居られないからこそ、せめて紙の上だけでもと願った。
そのおかげで再会出来るだなんて当時は夢にも思っていなかったので、そこは嬉しい大誤算だった。
「……ひじり」
「なぁに?」
「ありがとぅ。大好きっ!」
「俺こそありがと。俺も、大好きだよ」
『あぁもう…折角今日一日、我慢出来てたのにっ。ばかっ。聖のばかっ!!』
頬に伝わる温かさを感じパッと窓の外へと顔を反らす。そんな自分に気がついてか優しく頭を行き来する兄の手に、堪えきれず声が出そうになった。
その瞬間。
車内に響き渡ったおどろおどろしい着信音に一気に引っ込んだ。これは、あれだ。かなり懐かしい。着信を受けるとなんちゃらという、思わず痛い痛い言っちゃう系のホラー映画で有名な、あれだ。
「……ねぇ、なんでそれ?」
「…そう言えばこの前ふざけてやったの、戻すの忘れてたなぁ」
雰囲気ぶち壊しで何故今?何故それを?感が拭えないけれど、声を出して号泣する事を回避出来たのはある意味感謝だ。
「…急ぎの用事?」
「いや、帰り遅いから大丈夫?って、蓮から」
「あっ!じゃぁ、急いで返事して帰らないとっ」
「なんかごめんねぇ」
「良いって! 気をつけて、急いで帰ってあげて!」
「うん、じゃぁ、風邪引かないようにね」
「うん、聖も!」
車を降り振り返り車内から手を振り笑う兄へと同じように手を振り返すと、車が見えなくなるまで見送った。
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