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- 25章 -
- 幸せの相違 -
しおりを挟む「ただ、寂しかったんだよ」
「寂しい?」
「そう。俺が言えたことじゃないけど、俺にとっての大切な思い出が聖にとっては苦しい思い出になってしまったって事が。楽しかったねって一緒に笑えなくさせてしまった事が、申し訳なくて…」
「それは…」
「雪、好きだよ? 雪を見たら聖との思い出が幸せな気持ちにさせてくれるから」
悲痛な表情を浮かべうつ向く弟の姿は胸に鋭いナイフを突きつけられたようで…繋いだ手を離し逆の手で繋ぎ直すとそっと引き寄せ抱き締めた。
「それだけじゃない。 五月蝿いくらいの静寂も、月明かりを受けて辺り一面照らす雪明かりも、照らし出されたその美しい町並みも、冬晴れの日に溶けて輝く眩しさも、複雑に引き寄せあった雪の結晶も、全部全部、凄く綺麗だと思う。こんなに綺麗な物を綺麗と感じさせる事を聖から奪ってしまったことが」
「………」
酷なことを言っていると思う。だけどいつかはと思ってしまうのだ。あの日のように何にも捕らわれず、純粋に楽しいと、美しいと思えるあの日をもう一度と。
「嫌いな物を無理に好きになる必要はないよ。嫌いを受け入れてく事も大切だと思う。でもね、ずっと嫌いなままで居なくても良いんだ。楽しい思い出を増やしていって、いつかは嫌いな物が好きに変わる、そんな未来があっても良いと思う。そうなってほしいって、俺は願ってるよ」
冬が来るたび思いだし苦しむなんて悲しすぎる。
好きになる未来、その為の手伝いが少しだけでも出来たら良い。それは自分の願いでもあり、責務でもあるのだから。
「…良いのかな。そんな未来」
「良いに決まってるじゃない。俺は心底聖に感謝してるの。聖が自分を責める事なんて何一つないんだから。いつかはさ、また一緒に笑って綺麗だねって言える日が来ると良いなって思ってるよ」
「……うん。ありがとう」
自分を抱き締める兄の手の温もりを感じながらギュッと目を閉じ、零れ落ちそうになる涙を閉じ込める。
同じ時間を共有し同じ物を目にしたはずなのに、そのあまりにも相違した2人の心証に頭が着いていかない。
その時、ふと“自分を許せんのは自分だけなんだから”という市ノ瀬の言葉が思い出された。
まったく持ってその通りだ。
自分の責任だと責めて許さずに居たのは自分ただ1人だけだった。自分勝手に悩んで落ち込んで、ろくに会話ももたず兄の気持ちさえも勝手に決めつけて、行き場のない思いに耐えきれなくなって…兄や市ノ瀬の“お前のせいじゃない”と言う言葉にも素直に耳を傾ける事が出来ないでいた。
そのなんて独り善がりなことか。
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