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- 25章 -
- 幸せの相違 -
しおりを挟む多分だけれど、弟が今日一番聞きたがっていたのはこの事だろう。正直な話し、最初は弟が雪を嫌う理由が分からなかった。
自分が起因しているとも思っては居なかった。
暫くして漸く感じ取れたその理由は言葉を失うもので。
あの日、母の言いつけで家に入った後の事を、弟が知ってしまっていたとは思っていなかったから。
なにをどれだけ言った所で弟の気を晴らすのは難しいかもしれない。それでも伝えたかった。
自分がなぜ “ 雪が好き ” なのかを。
「…確かにあの頃は嫌な事が多かったけど、そんな毎日の中で聖だけが救いだったの。本当に。無邪気に笑って俺を必要としてくれて、なにを引き換えにしたとしても聖を失いたくなかった」
「……」
「あの日目をキラキラさせながら訪ねて来て、俺の手を握ってきゃっきゃして笑いながらさ、小さな手で一生懸命雪をかき集めて真剣に雪うさぎや雪だるまを作る聖と遊んだのも、出来上がって並べられた歪だけどすっごく可愛い雪うさぎ達は俺にとっては凄くすっごく大切で幸せな思い出で、何にも変えがたい宝物なんだよ。俺が雪が好きなのは、そんな聖との思い出があるから」
「そう、言ってくれるのは嬉しい、んだけど…でも」
「…………」
分かってる。濁した言葉の先は、弟が居なくなった後の自分と継母の事だろう。あんな思いをしたのにどうして、とでも言いたいのだろう。
これこそが弟の心にトラウマとして残った、雪を嫌う大きな理由なのだと。
「ごめんね」
「なにが?」
「怖い思いさせて」
あの時自分がもう少しうまくやれていればあんな物を見せずに済んだのではないかという後悔の気持ちはある。
弟の中に色濃く刻まれた赤は、自分の落ち度だ。
「そんな…聖が謝ることじゃー」
「関係ないんだよ」
「え?」
「俺にとっては関係ないの。雪だからああいう事が起こったんじゃない。だから俺は聖が考えてるような理由で雪を嫌いになる事はなかった」
あの赤も、受ける体の痛みも、晴れも雨も雪も関係なく日常的にあったものだ。特別雪だから、なんて考えは微塵もなく、嫌いになる理由にはならなかった。
とはいえ五感の中でもっとも知覚に影響を与えるのは視覚というし、幼い弟が見てしまったもので受けた影響は大きいものだっただろう事は理解できる。
だからこそ後悔は大きく何度だって謝罪を口にしたくなってしまうけれど、重ね重ねて伝えた所でなんになるというのだ。自分が誘わなければと、弟が更に自分を責めるだけだ。
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