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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む「安積」
「えっ、なに?」
「手、繋ぐ?」
「……は?無理に決まってんだろ」
「じゃー、チューする?」
「頭沸いてんのか?」
「…なんか既視感あるわそのセリフ」
人が真剣に悩んでいるのに、さも楽しんでいるかのように笑いながらサラッと言ってしまう姿を見るとなんだか馬鹿らしくなってくる。
「でも」
「なんだよ」
「駄目とは言わないんだな」
「え?」
なにが?と思うも束の間、即座に意味を理解し慌てて弁解に口を走らす。
「駄目に決まってんだろっ!?こんなどっ昼間のっ、しかも公共の場でっ!!なに考えてんだよっ!」
「じゃぁ、夜の私的な場なら良いと?」
「無駄に前向きだなぁっ!?」
慌てふためく様すら楽しんでいるようにしか見えず、物凄く弄ばれてる感は否めない。
でも、それでもやっぱり
市ノ瀬が楽しそうにしてるならそれで良いやと、そんな彼と居て楽しいと思ってしまうのだから、どうしようもない。
「あ、バス止まってる」
「まじか、急がないと」
バス停へと足を早めつつ、直ぐに乗り込める様に電子アプリを開く。暫く使ってなかったが残高はしっかり残っているようで、ほっと胸を撫で下ろし進む列の最後尾に並んだ。
「じゃぁ、本当にありがとう」
「別に良いって」
「あと」
「ん?」
「やっぱなんでもない」
「はぁ?」
「じゃぁ、また学校で!」
「あぁ、気をつけて」
「送りありがと!睦月もなっ!」
なにをどうした所で出来ないことには変わりない。けれど手を繋ぎたいと願った自分の気持ちをまるで読み取ってくれたように同じ提案をしてくれた事が、そうでなくても市ノ瀬も手を繋ぎたいと思ってくれた事が物凄く嬉しくて、それ以上の提案をしてくれた事ももちろん………
それだけではなく、こうして事ある毎に好意を言葉にしてくれることが不安になる気持ちに安心感を与えてくれて。
ありがとうの言葉1つでは足りなくて…それでもバスの出発は待ってはくれないし短い言葉で伝えることも難しく、寒い中これ以上付き合わせるのも悪いと言葉を飲み込んだ。
市ノ瀬が見える空席へと座りバスの中から手を振ると、姿が見えなくなった所ところで溜め息をついた。
『なんか、あれに似てる…』
自宅でお泊まり練習して2人が帰ってしまった後、楽し疲れして直ぐに休みたいのにもう少しいて欲しかったと悲しくなって、また直ぐに次を期待して待ち遠しい、あの感じ。
一緒に居られる時間はまだまだあるのだからきっと直ぐに次はあるとは思うのだけど、それが待ち遠しくて仕方ない。
徐行走行するバスの窓からは見せつけるように雪景色がゆっくりと流れている。まじまじと眺めてしまえばまた暗い気持ちなりそうだ。今はまだ、昨日今日の幸せに浸って居たくて、下を向き目を閉じた。
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