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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む『しないでする後悔より、してする後悔の方が良いに決まってるっ!』
大丈夫大丈夫と心の中で唱えると、小さく息を吐き出しパッと顔を上げた。
その先に待っていたのはー
「ーっ! なっ、にしてんだよ?」
「いや、まぁ…」
後一歩踏み出して居たらぶつかっていた。
そんな距離で体ごと自分を向いていた市ノ瀬の姿だった。
咄嗟に前へ出した手は市ノ瀬の肩付近を見事にとらえ、見事衝突回避できた自分の反射神経に密かに自画自賛する。
「なんか、難しそうな顔して歩いてるから。気がつくかなぁーと」
「声かけろよ…」
「でもまぁ、ちゃんと気がついたな。偉い偉い」
「誉められてる気がしねぇよ、それ」
『でも…』
触れた手のひら。それはただの偶然だけれど。
それだけで、頭の中をぐるぐるしていた悩みや寂しさがぶっ飛んで満たされてしまう。
勿論そんなのは今だけで、家に帰ったらまたぶっ飛んだものが戻ってくるだろうけれど…
『このまま、ぎゅってしたい』
沸き上がる欲は止まる気配がなく困ってしまう。
『離れたくない』
『もっと一緒に居たい』
温もりと安心感と幸福感に包まれて眠った今朝までの自分が羨ましい。
「……たくない」
「ん?」
「……ん?」
「いや、今なんか言っただろ?」
「えっ?…言っ、たかな?」
「はぁ?」
「多分気のせいじゃない?」
「自分の事だろ」
聞こえなくて良かった。
完全に無意識だった。
多分、帰りたくないとか離れたくないとか言った気がする。そんな事言ったら絶対そうしてくれるだろうから。散々世話になっておいてもっとなんて言えない。
家族だろうが恋人だろうが、いくら仲が良かろうが、離れて1人の時間を持つのは誰にだって必要なはずだ。それに、自分も考えなきゃならない事があるのだから。
聞こうと決意を決めたけれど、不安がない訳でもないけれど、どうあがいても1番は市ノ瀬だけれど、市ノ瀬だけに時間を使う訳にはいかない。
大丈夫、多くはないがまだ時間はある。
ギリギリになってしまうけれど、聞くのは最悪班乃の誕生日が終わってからでも間に合うはずだ。
多分。
肩に置いたままだった手をぎゅっと握り締めて下へ下ろした。
「バス停どっち?」
「あぁ、あっち」
場所を聞くことで帰ることを促し、何度目かの止まった足を再び動かす。誰かが雪掻きした山を避けながら歩き、歩きやすくしてくれてありがとうございますと心の中でお礼を言った。
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