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慰弦

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- 25章 -

- 不香の花 -

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なんで自分があんな事をしたのかは分からない。
でももしかしたら、痛みの中に居る事で少しでも許されたかったのかも知れない。

同じ痛みで償う事は出来なくても、せめてあの時の記憶の中でー


「ちげぇよ」

「ん?」


少し思考を飛ばしていた。ついさっきまで話していた事はなんだったかと記憶を遡る。

『そうだ、昨日みたいな事は止めろよって言われたんだった。それで…迷惑かけてごめんって…』


「迷惑だからって話じゃねぇよ。普通に……心配だろ。いい加減分かれ馬鹿」

「……え?」

「えっ、じゃねぇよ。事故ったり風邪引いたり、とか、色々。あんだろ。そー言うの」

「あっ、そう…だよな。ごめん」

「……ごめん?」

「あっ、ありがとうっ!?」


言い直した返答に満足したかのように小さく頷いた市ノ瀬は再びバス停への道を歩き始める。

なんだかいつもこんなやり取りをしている気がする。

もちろん感謝はしてる。でもどうしても反射的に謝罪が先立ってしまうのだ。もはや癖の域だ。
別に遠慮してる訳ではないのだけど…

『うまく、言えないけど…そうじゃなくて…』

しかし、謝罪の言葉より感謝の言葉の方が嬉しいのは当たり前だ。そこは変わらないといけない…

と言うか、変わりたい。

市ノ瀬がそう望むなら。


「そう言えば」

「ん?」

「学校で話したいことがあるとか言ってたの、なんだったんだよ」

「あー…」


すっかり頭から抜けていた。というより自分の事で手一杯でキャパオーバーしていた。

聞こうとしていたのは班乃の誕生日の事だ。

班乃にとって素直に喜べないであろう誕生日。
雪も降って、尚更気分ではないだろう。

止めるべきかもしれない。だけど…


「それな、もうちょっと自分で考えてみる」

「そうか、分かった」


とは言ってもあまり時間がない。
急いで考えないと…


「ぼんやりしてっと転ぶぞ」

「あぁ、うん」


注意喚起に足元に目をやり慎重に歩く。これは見慣れた風景で、いつだって雪の日は下を向いて歩いていた気がする。
あの時の事を忘れていた時でさえあまり雪を好きとは言えなかった。奥底にしまわれた記憶がそうさせていたのかもしれない。

顔を上げ周りを見渡してみる。

目に移る景色はやはり好きとは程遠く、嫌いで良いとした所で憂鬱で心細い気分にさせるには十分だ。

肩の荷が降りて穏やかな気分に、とは言ったものの、やはりそうすんなりとはいってくれないようで、気分の浮き沈みが激しくて嫌になる。

“ 辛かったり悲しかったり、誰かに迷惑かけて申し訳ないって落ち込むなら、俺の所にくればいい 
馬鹿みたいに甘やかしてやるから ”

そうは言ってくれたけど…
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