716 / 1,150
- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む「遊園地、良い思い出になったって」
「っ!?」
「良かったね。チケットあげたお姉ちゃんに感謝」
「………~っ、行くぞ、安積っ!」
「えっ!?ぅ、うんっ!?あっ!!えっと、お邪魔しました!!」
「どういたしました。気をつけて」
自分の腕を掴み逃げ出すかのように家を出ていこうとする市ノ瀬に引っ張られるまま、手を振る姉へと辛うじて挨拶だけは叫び伝え家を後にした。
言葉を交わすことなく引っ張られるままに歩みを進め、見上げたその背中からはなんだか不機嫌そうな空気が漂っている。
『なに?なんか不味いこと言った?俺??』
「ねぇ、睦月っ?」
「………」
「睦月っ!?」
「…………」
「睦月ってばっ!!」
3度目にして漸く声が届き掴まれていた腕が解放され、その場に立ち止まると上がった息を整える為に何度か深く深呼吸を繰り返す。
急に深くまで取り入れてしまった冷たい空気にむせ返りそうになるのを、息を止め何とか堪えた。
「なぁ、急にどうしたんだよ?俺なんか不味いこと言った??」
「別にっ!!」
『嘘つけっ!!』
その反応は完全になにかあった時の反応だ。しかし自身の言動を振り返っても思い当たるものはない。ただ、お礼を言っただけだ。
それの何がいけなかったんだろうか?
「えーと、遊園地行ったの、言っちゃ駄目だった?」
「そうじゃねぇよ」
「……えと、じゃぁー」
「もう良いからその話は」
「…分かった。でもなんかしちゃったならごめん」
まったく思い当たらないし、理解してない事を謝るのは失礼かも知れないけれど、教えてくれないのならしょうがない。
市ノ瀬にとってなにかしら都合の悪い事をしてしまっただろう事はありありと感られ、謝罪の言葉を口にする。
そうして申し訳なさそうな表情を色濃く浮かばせる安積に、謝らないといけないのは自分の方だと市ノ瀬は罪悪感を感じざる終えない。
安積は悪いことなど何一つしていないのだから。
『ただー』
あの時のチケットは姉が福引きで当てた訳でも貰った訳でもなんでもない。
普通に購入した物だった。
ただそれを言ったら遠慮して安積が全力で楽しめなくなってしまいそうで、更には代金をーとか言い出しそうだったのが嫌で貰ったと嘘をついた。
その事が姉にバレてしまったのが気まずいやら居たたまれないやら、恥ずかしいやらであの場に居られなかった。
冷静に考えれば安積の性格からしてお礼を言うのは想像できる事で…
「失敗した…」
「え?」
「失敗した失敗した失敗した失敗したっ!!」
「えぇっ!?落ち着いて!!そもタイムリープしてないよ!?多分っ!?」
「したいくらいだよっ!」
「えぇー……(;´д`)」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。
riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。
召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。
しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。
別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。
そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ?
最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる)
※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。


BlueRose
雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会
しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。
その直紘には色々なウワサがあり…?
アンチ王道気味です。
加筆&修正しました。
話思いついたら追加します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる