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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む『っつてもなぁ…』
結構濁さず伝えてるつもりなんだけれど。信じてもらえてないという事なのだろうか?
もしかしたら、伝えすぎて言葉に重みがなくなってるのかも?
『ちょっと、控えてみるか』
押して駄目なら引いてみろ、とは少し違うけれど、少しずつ心の深い所まで話してくれるようになった今、聞くに徹して安積を理解し信頼関係を深めていく時なのかもしれない。
なんとなくだけれど方向性を決めた後ー…
「………そっちが良かったんだけどなぁ」
部屋に戻り気持ち良さそうに寝ている安積を見て1人呟いた。
クッションはないけれど枕は2つある。仰向け用と横向き用だ。向きによって枕を変えないと顎の弛みや体の凝りに繋がってしまう。横向きで寝ることが多い市ノ瀬だっだが、生憎横向き用は安積が頭に引いていた。
仰向けで。
しょうがない。あまり良くないけれど枕を折って使うか、と起こさない様極力静かにベッドへと入る、がそれは失敗に終わった。
「……お帰り」
「…ただいま」
寝ている所起こしてしまったのは申し訳ないけれど丁度良い。枕を交換しても良いかと伝えると短く頷いた安積だったが動く気配はまったくなく、仕方なく頭を支え枕を入れ換えた市ノ瀬は自身も体を横たえベッドに潜り込んだ。
無防備に目をつぶる横顔を眺めその目にかかる前髪を指で払いのける。今日は1日疲れただろう。朝を向かえたとしてもこの雪は当分溶け残るだろうし、暫し心沈む日々を過ごすことになるだろう。
ならばせめて今は
夢すら見ずに心休まる時になって欲しい。
目が覚めても1人ではないんだと感じて欲しい。
そんな思いから仰向けで寝る安積の胸元に手を添えると自身も目を瞑り寝る体勢に入った。
胸元に添えられたまるで大切なものを扱うかのような優しい手と、風呂上がりの少し高い体温が安らぎに包まれたような感覚をもたらし、体が “ もっと ” と自然と求めた。
姿勢を横向きに変え市ノ瀬の方を向いた安積はその首もとに顔を埋める。
『いつもと違う匂いだ…』
多分、香水…かボディーミストかは分からないけれど、いつもつけているそう言った物を付けていないからだろう。どちらにしても、良い匂いだ。
大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
置き場に迷い転々としていた市ノ瀬の手が腰辺りに落ち着いた頃、静かに口を開く。
「今日さ…いつの間にか外に出てて、気がついたらあそこにいたんだ」
「…そう」
「でも、もしかしたら…少しで良いから」
「ぉう」
「お前の近くに居たかったのかも」
「……」
「ホントはちょっと…期待してた。会えないかなって」
「………」
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