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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む別に呼び止めるつもりなんてなかったのだけれど…勝手に出てしまった言葉に足を止めさせてしまったのなら、折角だし1つの考えとして聞いてみるのも良いかもしれない。
「嫌なものにあえて飛び込んでくのってなんでだと思う?」
「……マゾッホ?」
「は?」
「負けたくない、から、逃げたくない、し、目を背けたくない。とか?」
「成る程」
最初の言葉は良く分からなかったけれど、成る程、前向きな安積に当てはまりそうな理由ではある。
それだけではない気もするけれど。
「なにか悩み?大丈夫?」
「大丈夫。俺の事じゃねぇよ」
「そ。ならいい。頑張れ。お休み」
「おう」
『なんだ頑張れって…』
階段を上がり自室へと消えていく姉の足音を聞きながら脱衣場へと向かう。思いの外長々安積と話し込んでいたようで、乾燥機にかけた安積の衣服はすでに取り出され几帳面に畳まれていた。
こういう何気ない優しさがあの反面教師を憎めない理由の1つかもしれない。
そんな事はさておき、寝ているとは言えいつまでも1人安積をほっぽっとくのも申し訳ない。手早く髪などを洗い、それでも湯船にはしっかりと入る。美容や健康の為に浸からない日は勿論ないのだけれど、今は気持ちの面でという理由が大きい。
天井を見上げ、大きく溜め息を吐く。
月影と安積にあんな凄惨な生立ちがあるとは思ってもみなかった。2人とも明るく優しく、時にはドン引く程元気で、そしてとてつもなくお互いを大切に思い合う仲の良い兄弟だ。
異母兄弟だとしても何かしらで別々に暮らすまでは本当の兄弟の様に2人仲良く幸せに暮らして居たのだろうと思っていた。
けれど、事実は全く別のものだった。
第3者である自分でも耳を塞ぎたくなるような生い立ちを口にするのはとても辛い事だっただろう。それでも打ち明けてくれた安積に気の聞いた一言すら返せなかった自分の力不足に溜め息が出る。
幸い安積達のような経験をした事はないし、身近にもそんな経験をした人は居なかった。力不足は経験値不足だからと言えばそうなのだが、だからと言ってそういう経験をするのを良しとはいえない。
結局本当の意味で救えるのは、同じ傷を持つ者同士にしか出来ないのかもしれない。月影や班乃のように。
『明?』
なぜそう思ったのか。自然と頭に浮かんだその名前にじんわりと暗い影が心を覆う。なにがあったのか、そんなものは分からないけれど、帰りの様子を見れば安積と同じく何かしらの事情があるのは分かる。
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