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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む「暫くして何事もなく母さんが戻ってきて、怒るでもなく静かな口調で、外に出ちゃ駄目よって一言言い残して出掛けていって…でも聖が心配だったから、もう一回庭に戻ったんだ。そしたらあちこちに朱い点が飛び散ってて…それは聖の部屋まで続いてた」
「……辛、かったな」
「違う。辛いのは俺じゃなくて聖だよ。多分…聖は最初から分かってたんだ。母さんに気づかれるって。その後自分がどんな目に合うのかも。そりゃそうだよね。足跡だって残るし、教えてってせがんで雪うさぎとか色々作ってたし…だから部屋に行った時、困ったように笑ってたんだ」
「それはそうかもしれないけど、でもー」
「聖はっ!」
でもきっとそれだけじゃなかったはずだ。
安積へ伝えようとした言葉は、内に秘めていた苦しみや辛さがあふれ出すように、吐き出してしまわないと息ができないとでも言うように叫んだ安積によって遮られる。
「気にしなくて良いって言ってくれたっ!だから俺も、いつまでも落ち込んでないで前向かなきゃって思ったっ!でもっー……」
「安積…」
「やっぱり、雪見ると思い出しちゃうんだよっ。あの時の事が頭に浮かんで離れないんだ。自分勝手な行動で傷つけたくせに都合良く忘れてたなんて、自分が許せなくて。気にしなくて良いって言ってくれたのが、余計に辛くて…」
「……だから雪が嫌いだって言ってたんだな」
「…聞かされても困るだけだよな、こんな話。ごめん、迷惑かけて」
それきり口を閉ざし静かに涙を流し続ける安積の肩へと手を回すと湿った髪に指を絡ませるようにして頭に手を乗せた。
もう少しちゃんと乾かせよ、なんて少し場違いな事を考えながら本来考えるべき事へと思考を戻す。
力になりたい。でも、今回はー
「迷惑だなんて思ってねぇよ。話すのだってしんどいだろ。聞かせてくれてありがとな」
「……うん」
「でも今回は…悪いけどお前にしてやれる事はそんなないかもしんねぇ」
「うぅん、聞いてくれただけでも十分だよ」
「…俺は十分じゃねぇけどな」
当たり前だ。力になりたいと思っているのに、出来ることがこんなにも少ないなんて…でもどうしようもない。
「許せてないのは、お前だから」
「……俺?」
「俺はお前が悪かったとは思わないし、聖さんだって謝る事はないって言ってるんだろ?でも誰がなんと言った所で、お前は自分が許せない。自分を許せんのは自分だけなんだから、お前にしかどうする事も出来ねぇよ」
「……そう、だよな。ごめん」
「なんで謝んだよ」
謝らせる為に言ったんじゃないし、なにかを責めたつもりもなかった。どうしようも出来ない話をして申し訳ないなんて感じてるなら、そんなんクソくらえだ。
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