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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む「本当はさ、気がついてたんだ。母さんが聖の部屋に行った時に聞こえる音だったり、その後には決まって聖の怪我が増えてた事も。それは、俺が会いに行ったのがバレた時も…母さんの行動をどんな言葉で言い表わすのかってのは知らなかったけど、ちゃんと気づいてた。でもそれを言って聖に会えなくなるかもしれないのが嫌だったから…気づかないふりしてた。聖に会うのが楽しかったから…」
「……しょうがねぇだろ。まだ子供だったんださら」
「…どう、かな。それでもやっぱ、なにか出来る事はあったんじゃないかって、思っちゃうんだよ」
それはある程度大人になった今からだからこそ言える事だ。幼かった安積になにか出来る事があったかも怪しいし、過ぎ去った事を悔やんだ所で変えられる訳でもない。それでもその気持ちを捨てることが難しいのは理解できる。
「起きたらさ、雪が積もってたんだ」
「雪?」
「そう、雪。積もったの始めて見てさ、すっごくわくわくして…母さんが出かけるの待って聖のとこに遊びに行ったんだ。俺を見て困ったように笑ってさ、それでも一緒に遊んでくれたの。庭で、色々作ってさ。でも、忘れ物したとかで母さんが帰ってきちゃって…」
「………それで?」
「家に入ってなさいって言われて、逆らえなくて…聖は無言で笑ってた。多分またねって。いつも、言ってくれてたから」
脳裏に浮かび上がる去り際の兄の笑顔に声が震え、両手にぎゅっと力を込めなんとか耐えた。これから起こること全てを分かった上で向けてくれたあの笑顔が、“いつもと変わらぬあの笑顔”がちらつく度にひどく胸を締め付ける。
自分勝手に都合の悪いことから目をそらし何も知らないふりした子供の自分は、今の自分よりも幼かった全てを知っている兄に守られていたのだ。
「言われるまま家に入ってさ。そしたら中庭から凄い音が聞こえてきて…恐る恐る覗いたら、無言で手を上げ続ける母さんと、無言のまま抵抗すらしないでされるがままの聖が見えて。怖くて怖くて耳ふさいで…その場で縮こまる事しか出来なくて…」
「……大丈夫か?」
「…うん」
繋いだ手が、毛布を握り締める安積の手が微かに震えている。無理もない。幼い頃にそんな経験をするなんてトラウマになったとしてもなんら不思議ではない。時間が過ぎる毎に忘れたと言っていたけれど、自分を守る為に無意識の内に記憶から消したという事も有り得るのではないだろうか。
「別に無理して話さなくてもー」
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