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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む濁して言ってはいるけれど、それは自分の母親が連れ子に対して一緒に住めなくなる程の行為をしていたと言うことで…
腹違いと言うことでなにかしらの事情があるのだろうとは思っていたけれど、実の母親を亡くし継母に虐待され孤児院に預けられたなんて、あまりに非情な境遇に上手く言葉が出てこない。
『そう言えば、コイツから親の話聞いたことねぇな…もしかしてー』
「お前は?」
「ん?」
「お前は大丈夫だったのか?」
まだ高校生という歳若さで転校までして1人暮らしをしているのは、もしかしたら親から逃げる為だったのではないかと不安がよぎる。
そんな市ノ瀬の心情を感じ取ったのか、安積は弱々しくも笑顔を作り市ノ瀬へと向けた。
「……うん、俺は大丈夫。普通に育てられたよ。……普通に、優しい良い母親だった」
「そう…」
良かった、とは思う。
不安が過ったとは言え今の安積を見れば十分大切に育てられた事は分かるし、今の安積が今の安積として居られるのは、幼さゆえに当時の状況を理解出来ていなかっただろう事も要因の1つかもしれない。
けれど市ノ瀬にとって、勿論安積にとっても意味は違えど月影は大切な存在だ。だからこそ手離しに良かったとは言えない。
「聖が居なくなって、時間が過ぎる毎にどんどん記憶からも消えていって…中2の時、ちょっとした切欠で思い出したんだ。忘れてた事とか、いろんな事をさ。もちろん全部思い出せたわけじゃないけどね。…それでどうしても謝りたくて、何処に居るのか探して、静創学園に通ってたって事だけなんとか分かって、それで転校して来たの。会えたのは本当に偶然」
「良かったな、会えて」
しかし、自分よりも他人を大切にする安積の事だ。幼い事すら言い訳にも出来ず、自分だけ幸せに過ごしていた事や忘れていた事に、途轍もない罪悪感を感じた事だろう。きっとそれは、自分が考えるよりも辛かったに違いない。
それに、自分の母親がそんな事をしていたなんて知ったその悲しみは想像も出来ない。もしかしたら、そんな母親を軽蔑し嫌悪したかもしれない。転校はそんな母親と離れる為という意味もあったのかも…
「会えるなんて思ってなかったから、嬉しびっくりだったよ! それで、色々とお互いの事とか、謝りたかった事とか、全部話してさ。今に至るって感じなんだよね。本当はさ、母親の事、嫌いになりそうだったんだけど……俺は、聖も、両親も、変わらず好きだよ。まぁ、ちょっと複雑ではあるけど…今もそう言えるのは、全部聖のおかげ」
「そうか。凄い人だな」
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