Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
701 / 1,142
- 25章 -

- 不香の花 -.

しおりを挟む


「えっと、安積です。すいません、こんな格好で」

「別に良いけど。取りあえず上着」

「えっ?」

「上着と帽子とマフラー、あと靴下も」

「えっと」

「床濡れるし風邪引く。乾燥機突っ込んどくから。あ、ズボンも」

「ずっ!?」

「おいっ!」

「ん?」


濡れた服を受け取るために差し出した姉の手を半ばひっぱたくようにして下ろさせた市ノ瀬が安積との間に割って入ると、ひっぱたかれた姉は手を擦りながらなんだか拗ねたような、腑に落ちないような表情を浮かべた。

『………性格に、難ありって』


「お前なっ!」

「なに?」

「なに?じゃねぇよっ!前から言ってっけど少しは距離感考えろっ!!」

「なにそれ?」

「なにそれじゃねぇよっ!?」


『確かに…これは睦月とは違う意味で難あり、かも…』


「友達だって言うから」

「だからって服脱がそうとすんな!」

「だって風邪引く」

「そう言う問題じゃねぇっ!」

「ならどういう問題?」

「~っ、もう良いからっ!俺がやるからっ」

「そ? あ、一緒に足湯でもしたら?睦も冷えたでしょ」

「そっ……れは良いな」

「睦月っ!?」


『姉弟かよっ!?姉弟だけどっ、姉弟だなっ!?』





寒いから早く上がりなよ~と言うのんびりとした言葉を残しリビングへと消えていく市ノ瀬姉の姿を呆気にとらながら見送ると、盛大な溜め息をついた市ノ瀬へと視線を向けた。


「えっと…良い、ねぇちゃんだな」

「どこがだよ…ったく、いつもいつも…とにかく寒いしさっさと足拭いて上がるぞ」

「……うん」

「あっ!!」

「Σっ!?」

「んだよ今度はっ!!」


突如大きな声が上がったかと思うと、リビングからひょっこりと姉が顔をのぞかせた。

おでんの容器を大切そうに抱えながら…。


「君…安積くん、だっけ?乾燥時間かかるし、車出すのも怖いし、今日は泊まってきな」

「やっ、そこまでご迷惑かけるわけにはっ」

「こんな時間に未成年に外出られる方が迷惑」

「あ、はい……」

「着替えは…私の貸す?」

「!?」

「俺の貸すよっ!」

「…大丈夫?」

「なぜっ!!」

『やばっ、思わず突っ込んじゃったっ』

「サイズ的にそっちのが良いかなって」

「それはっ…確かに」

『遠慮なしっっ!?』


安積の突っ込みに気分を悪くするでもなくさも当然のようにさらりと返答した姉の隣で、少し納得したような顔した弟が実に腹が立つ……こんな所でも兄妹感出さないでほしい。地味に傷つく…

『ってか懐柔されてんじゃねぇよっ!!』

足湯と言い今と言い、守る様に反論してくれるわりには直ぐに言いくるめられてしまう辺りに兄妹の力関係が見えた気がした…


「あ。そういえば安積くん。晩ご飯は?」

「軽く食べたので大丈夫です」

「軽く…」

「…あの?」

「おでん、食べる?」

「食いかけ渡す馬鹿居るかっ!」

「そう、良かった。私もおでん食べたい」

「そういう問題でもねぇよっ!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...