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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む「俺は…別に。ただの散歩だよ」
「散歩って…なんで?」
「散歩にたいした意味なんてないだろ」
「それは、そうかもしれないけど」
この天気で意味のない散歩をする人なんて居るのだろうか?大人しく傘の下に収まり体に積もった雪を払い落としていく様子を何も言えずにただ眺める。
「睦月は?」
「俺は…頼まれ事してコンビニまで」
「そ。じゃぁ早く帰らないとな」
「………」
「気を付けて帰れよ」
『や、そう言われて帰れるわけがないだろ』
明らかに様子のおかしい好きな人を前にして
そんな事が出来るわけがない。
それにここは安積の自宅から大分離れているし
わざわざこんな所まで来る意味も分からない。
そんな状況で放っておく選択肢があるわけがない。
帰らせようとする安積の言葉を無視し傘からはみ出さないように肩に手を回すとコンビニへと足を向けた。予想に反して大人しく着いてくる様子にほっとしつつ肩に回した手を下ろす。
終始無言のまま目的地までたどり着くが店内へと入るのを拒むように安積が足を止め、手を引こうと伸ばした市ノ瀬の手を避けるように1歩下がると小さく顔を横に振る。
「俺は…外に居るよ。ほら、店内…汚しそうだし」
「…分かった。帰るなよ」
「……うん」
念を押すと申し訳程度の屋根の下に入りうつ向く安積の姿を確認してから店内へと足を踏み入れた。
市ノ瀬が店内に入ったのを気配で感じとると、夜なのにどこか明るい気持ちの悪い空を見上げ溜め息をつく。
まさか、鉢合わせるとは思わなかった。
会いたくはなかった。
でも、会うことをどこかで期待してた気もする。
どこを見ても同じような景色の中、寒さから身を守る様にマフラーへと顔を埋める。
何をしたかったのか、何をする為に外へ出たのか、自分にだって分からない。言葉にして言い表す事は出来ず、ただ言えるのは気がついたら外に出ていた。それだけだ。
吐き出した息が雪に分断されかき消されて行く中、浮かんだのは班乃の事だった。今彼はどうしているだろか?無事に帰れたのだろうか?不安になっていないだろうか?辛い記憶に押し潰されては居ないだろうか?
落ち込んで居るなら力になりたいとは思うけれど自分自身でさえ上手く扱えていない今、出来ることなんて何もない。2人で落ち込んでしまっては余計悪化させてしまうだけだ。
だけど…
チラリとコンビニ内を覗き市ノ瀬がまだレジに居ないことを確認してから携帯を取り出すと、最早かけなれた連絡先へのボタンを押す。すると僅か数コール目にして早々に切れたコールと返って来た声に思わず言葉を詰まらせた。
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