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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む「あのさっ!いつもありがとう!でも暗くなると危ないし心配だから、今日は睦月も早く帰ってよ」
「…良いのか?」
「ん? うん」
「………」
「ほら、早くっ!」
様子のおかしい安積をこのまま1人帰らせるのは気が引けて足を動かせないで居ると、止めるなとでも言いたげに体を回され背中を軽く押し出される。
その力に2歩ほど前に進むと、後ろを振り返った。
「お前がー」
「うん?」
「笑えないなにかがあるなら…」
「……」
「…なんでもない」
辛いなら辛いと言え
1人で背負うな
自分にも背負わせろ
あの日伝えた言葉は届いていなかったのだろか?
自分では力不足と言うことなのか?
1人ではなく班乃と共有しているから自分の助けなど必要もないという事なのかもしれない。
それとも、自身に影を落とす何かを言葉にする事が難しいのだろうか?
それとも
それともー
思い浮かぶ可能性に言葉を飲み込み、ざわつく心を誤魔化すように安積へと傘を差し出した。どれが理由だったにせよ、今の自分が安積の言葉を聞くことは難しいのだろう。もっと頼れだなんて押し付けがましく言うつもりもない。
言うも言わないも、安積の気持ち次第でしかないのだから。
差し出された傘にしばし悩ましげな視線を向けた安積だったが、遠慮がちに軽く押し返した。
「…いや、良いよ。直ぐ家だし。お前が濡れるだろ?俺は大丈夫だから」
「うるせぇよ。これくらいさせろ馬鹿」
「…おばーけやーしきぃー、のあの子かよ」
「素直にありがとうと言えんのかお前は」
「ありがと、睦月」
言われた事には若干腹が立つけれどそれでも暗く沈んだその顔に、薄くではあるが笑顔が浮かんだ事に、押し返した傘を受け取ってくれた事に安堵する。
傘に隠れるようにしておでこをくっつけると、避けられる事はなく照れたように目を伏せて笑った。
「じゃぁ、気ぃつけろよ」
「うん…睦月も」
名残惜しさで頬に手をやると、微かにすり寄るその仕草に親指で応えそっと離す。今はこれくらいしか出来ないのがもどかしいけれど、納得するしかない。
背中を向けバス停へと向かい、道を曲がり見えなくなる前にもう一度安積へと振り返る。弱まる事なく降りしきる牡丹雪が視界の邪魔をしハッキリとは見えないけれど、まだ人影が同じ所に立っているのが分かる。
班乃を見送った時もそうだったように、きっとあそこに居るのは安積で間違いないだろう。
最後に大きく手を上げると、その影も同じように手を上げるのが見えた。
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