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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む『っ!?』
考え事に夢中になりすぎていたのかもしれない。ふいに揺れた視線が次に写したのは、積もった雪に自分の両手が埋もれている所だった。
突如後ろから聞こえたズシャっという音に振り返った班乃らが見たものは、転がった傘と地面に両手をつき座り込み、自分の身になにが起こったのか分かってないような表情を浮かべた市ノ瀬の姿で。
「睦月っ!?」
「ちょっと、大丈夫ですか?」
「……いや、まぁ、うん。大丈夫」
差し出された安積の手を借り立ち上がると、小さな舌打ちと共に見事な雪化粧がされたコートを払う。すると不意に雪が止み見上げると、いつの間にか拾われていた傘が班乃により差し出されていた。
「なにしてんだよお前」
「…段差。雪で埋もれて気づかなかった」
「大丈夫ですか?怪我は?どこか痛いところはありませんか?」
「ぃや、そんな大袈裟な。大丈夫だってこんくらい」
「…そう、ですか。それなら、良かった。でも本当、気を付けてくださいよ。道路に飛び出しでもしたらー」
「心配しすぎだって。おかんかよ」
「……せめておとんと言ってください」
「公園っ!突っ切って帰ろっ。そっちのが車の通りもないし安心だから」
「そうですね」
怪我もなく無事なことが確認されると、安積の提案通りに公園へと足を踏み入れる。再び歩きだした帰路は先ほどと同じような、ただただ雪を踏むギシギシという音だけが発せられるのみだった。
そんな沈黙は班乃の利用する駅へ到着すると同時に、暗く落胆した声で破られる事となる。
「あー…」
「だよねぇー。電車来るまで一緒に待つよ」
到着した駅は人でごった返しており、電光掲示板には遅延の文字が流れ続けていた。寒さや早く帰りたい気持ち、いつになれば来るのか分からない電車に苛立つ人の群れからはピリピリとした空気が流れている。
「ありがとうございます。でも暗くなると危ないですから。先に帰ってください」
「でも……大丈夫?」
「えぇ、大丈夫です」
「………そう」
「ご心配、ありがとうございます」
「うん」
心配そうに申し出た言葉を丁寧に断り安心させるようにその肩を叩くが、尚も晴れない顔で心配そうに立ち止まる安積に出来る限りの微笑みを返した。
まるで深いところに出来た傷を優しく撫でるような、そんな思いやりに胸が締め付けられ思わず抱き締めたくなる衝動が沸き上がるがなんとか抑えこむと市ノ瀬へと視線を向ける。
「本当、気をつけて下さいね。雪道は危ないですから。安積も睦月も、気を付けて帰ってください」
「んな心配しなくても大丈夫だって」
「……一体どの口が」
「分かったってっ!気を付けるよっ!」
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