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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む『あ。初…雪?』
授業に耳を傾けながらなんとなしに目を向けた教室の窓からは白い粒が微かに見えた。通りで朝から刺すような寒さだったわけだ。まだ粒は小さい灰雪のようで、これから強くならないかぎり積もることはなさそうだけれど。
『雪、か…』
少し前、驚くほど冷たい声で雪は嫌いだと言った安積を思い出し、市ノ瀬は目の前に座る後頭部を見る。どうやら雪が降り始めた事には気がついていないようだ。
なぜそんなに嫌いなのかは分からないけれど、出来るなら気がつかない内に止んで欲しい。しかしそんな願い虚しく、授業が終わる頃には牡丹雪と化していた。
「あさー」
授業が終わり即座にかけられた市ノ瀬の呼ぶ声に気がつく間もなく、安積はさっと立ち上がり一直線に班乃のもとへと向かった。
「あっきー今日部活は?」
「ある予定ですけど、多分今日はなくなるんじゃないでしょうか。…天気、悪いですし」
「そっか、じゃぁ早く帰ろ?遅くなる前にさ」
「えぇ」
部員と2~3会話をする班乃から離れ自分の席へと戻り、心なしか不安げな表情を浮かべながらHRも待たず帰りの準備を始める安積にならい、市ノ瀬も帰りの準備を進めつつ声をかけた。
「安積」
「ん?」
「昼に言ってた事だけどー」
「あぁ…悪い、それ今度で良いかな?」
「別に、良いけど」
そんな会話の後まさしく有言実行で即座に着いた帰路は、どんよりとした空からボタボタと降り注ぐ雪が傘の上で盛大に音を立て視界も頗る悪い。
灰雪から牡丹雪に早変わりしまだ1時間くらいしか経っていないのにも関わらず、既に地面が隠れる程に積もっていた。
傘に積もった雪を振り落としながら目に入った前を歩く2人は、1つの傘に寄り添うように収まり歩いている。
傘を持っていなかった安積へ自分の傘に入って行くかと提案する前に、班乃の傘に入り込んだその後ろ姿になにも言う事は出来なかった。
嫉妬。
普段なら多少なりそういう感情も湧く所だろうが…
普段とは打って変わって、終始無言で歩き続ける2人の様子に湧く気配ない。
安積が雪を嫌っているのは知っているが、班乃の様子から見るとどうやら班乃も雪に対してなにか思う事がありそうだ。
お互いになにか事情を抱えているようで、それは自分の知らぬ所で、更に2人はきっとその事を共有もしているのだろう事も感じとれるけれど、なんだかそれすらも最早当たり前の事に思えて、知らないのなら知れば良いと思えるほどだ。
聞いても良いのだろうか?
けれど、空気感が口を重くさせる。なんだか気軽に聞いてはいけない気がしてー…
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