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- 25章 -
- もういくつ寝ると -
しおりを挟む誉めたと言う鈴橋の言葉は本心だと思うのだが、性別すらも越えた称賛がなんだか切ない。カッコよく男らしくありたいと思う植野だったが、そんなイメージはどうやら自分には持ってくれてはないらしいと少し複雑な気分になった。
『俺って…そんな女々しいかな…?』
そう思い巡らせた思考の中では自覚できる女々しさを拭い切れない要素が安易に思い浮かび、理想とする自分とはかけ離れているという現実が突きつけられただけであった。
『…や、こうしてうだうだ考えてる時点でもはや女々しいのでは??』
それに母親=女々しいと捉えるのも失礼極まりない話だし、自分の母親を思うとそれが間違った考えだという事は秒で分かる。自分の理想と相手の理想が一致するとも限らないのだし、それについ最近言われたばかりではないか。
好きになったのは今の俺だと。
思い出したあの時の言葉に今自分がすべき事は変わる成長ではなく、好きといわれている所をより良く伸ばしていく成長をすべきだとの結論に至り、決意を固めるよう小さく握り拳を作った。
「がっくんっ!」
「なんだよ」
「俺、もっと良いお母さんになるからっ!!」
「は?なに言ってんだお前。 良いよ、別に」
「…あっ、はい」
バッサリとした言葉に急激に頭が冷静になる。
確かに、確かにだ。勢いで言ってしまったけれど、磨きをかける所はそこじゃないのかもしれない…戸惑うような冷ややかな視線に耐えながら、ならば自分が磨きをかけるべき所はなんなのだろうかと考える。
1歩でも2歩でも、その1歩が例え1ミリでも、相手にとってより良い人でありたい。それが自然の心理というものだろう。
「悪かった。変なこと言って」
「えっ、なにが!?」
「いや、なんか悩ませたみたいだったから」
鈴橋としては勿論褒めたつもりであり、まさかそれで悩ませてしまうとは思ってはなかった。考えてみれば自分にとっての褒め言葉が相手にとってもそうだとは限らず、自分基準で話してしまったが故に嫌な思いをさせたり悩ませてしまうのは本末転倒だ。
それで気を使わせてお母さんになるなんて言わせるなんて…後の祭だが思慮の足りなさにため息が出そうになるのをなんとか堪える。
そんな綺麗なすれ違いを起こしながらうまく繋がらない意思にしばし見つめあう。このすれ違いはどこからどうすれば鉢合わせる事が出来るのだろうが。
でも……
「ふっ……」
「…なに笑ってんだよ」
「いや、楽しいなぁって」
「はぁ?」
すれ違ってしまっては居るけれどお互いの頭を悩ませている根本は、お互いを想っての事だというのは同じだと思う。
例えこのすれ違いが一本に繋がらなかったとしても、そう思い合えているだけで幸せなのは確かであり無理に繋げる必要などないのかもしれない。
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