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慰弦

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- 25章 -

- もういくつ寝ると -

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「…お父さん?」

「…え? あっ!いやっ、お父さんというか、そのっ」

「お父さんか」

「ちっ、違う!違くて、違くないけどっ!!」

「なに焦ってんだよ?」

「なんか、ごめん…父親みたいなんて言われても嬉しくないよね。ごめん」


親のような偉大な愛や寛大さや安心感も兼ね備えている、的なニュアンスの事を伝えたかったのだけれど、まだ10代の同い年で、しかも恋人から父親と言われるのはあまり嬉しくなかったかもしれない。失言だった。

自身の発言に後悔し項垂れる植野を、心底不思議そうに眺めた鈴橋が首を傾げる。鈴橋にとって、父親の様と言う言葉は嫌悪を抱く言葉ではなくー


「なんで?普通に嬉しいけど」

「え?」

「父親にもなれるなんて、役得じゃないか」


植野自身に自覚はないかもしれないけれど父親を連想させる場面で悲しそうな顔をする時があるのはずっと気になっていた事であった。

そんな植野に対して出来る事の少なさにもどかしさも感じる事も多々あり、だからこそ “ 父親 ” と言う物を少しでも与えられるのならそんな嬉しい事はなかった。

しかし実の所、植野が物心付いた時には既に父親は居なかった為、父親の様だとは言っても本当の父親がどんなものなのか分からないのが正直な話で。寂しく感じてたのも劣等感を持ってたのも昔の話。

だから父親みたいと言うのは想像上の話でしかないのだけれど、それでももし父親が居たのなら、鈴橋が持つ1面のような部分もあるのだろうなと思ったのは事実だった。

誤解無いように言っておくが、勿論恋人として好きだと言う気持ちも平行してある。
そしてそんな思いですら嫌がる所か役得だと言いきる姿に胸が熱くなる。

『懐広すぎだよ…がっくん』


「…好きになったのが、好きになった人で本っ当に良かった」

「そうか。よく分からんが、それは良かった」


とは言えこれは課題だと頭に止めておかないと。不安に感じてしまう事は話し合って行けば良いとも思うけど、そもそも不安にさるなんて事はない方が良いに決まっている。鈴橋が自分の為にと何かしらの劣等感を感じる必要なんて全くないのだから。


「なんか、面白いな」

「ん?なにが?」

「俺は、母親みたいだって思ったから」

「えっ!?」

「……誉めては、居るんだが」

「そ、か…ありがとう」


なんとなく気まずい空気が漂う。父のようだと言った言葉を謝罪したと言うことは、親のようだと言うことは植野にとっては嬉しくはない事だったのかもしれないと遅ればせながら気がついた鈴橋は慌てて謝罪を口にする。


「悪い。今のは失言だった」

「えっ、いやっ、そんな事はない、んだけど…なんか」

「…なんか?」

「いや、うーん…」
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