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- 24章 -
- 財布拾っただけなのに -
しおりを挟む「あっ、あー…なる程、これは、そうね…結構盛大に水かけちゃったのね」
「…本当に、申し訳ない」
羨ましくて仕方がない気持ちでヤキモキする植野だったが、鈴橋が手にしたびしょ濡れの制服を目にすれば自ら髪を乾かしたり上着を貸したりと尽くすのも頷けた。
真冬の気温の下がる夕方に、しかも外で誰かに水をかけてしまったとなったら、自分でも申し訳なくて色々と尽くさせもらうだろう。
「それで、お財布は届けられたの?」
「あぁ、葉斗先生が職員室持ってってくれるって」
「なら安心だね」
なにか手伝いたい所だけれど生憎ドライヤーは1つしかない。変わりを申し出た所で責任感の強い鈴橋の事だ。頑として譲らないだろう。せめてと壁にかけてる上着を乾にやすいようにと手とり差し出すと、返された小さい感謝の言葉に笑顔で頷き返した。
「……でも、あっきーは役得だなぁ」
「なにが?」
「がっくんに髪の毛乾かしてもらえて、がっくんに服乾かしてもらえて、がっくんに上着まで借りられてさっ」
「凄い強調するな…」
「だって至れり尽くせりじゃんっ。がっくんのドライヤーは最高だしねっ!」
「役得だと思うのはお前だけだろ」
どこか呆れたように笑う鈴橋の姿からは、先程までの落ち込んだ雰囲気が少しだけ和らいだ様に感じられほっと胸を撫で下ろした。責任感が強い上になんでもないように見せかけてしまう強がりさんで、更にはわりと引きずるタイプなので本当に目が離せない。
「がっくんにそこまでしてもらえるなら、俺も水被りたかったなぁ」
「そんなにご所望ならいつでもどこでも心行くまでかけてやるけど」
「いや、出来れば冬以外で」
なんど呆れられても笑ってくれるのならおちゃらけて馬鹿言うくらい何度だって朝飯前だ。
まぁ、言ったことの半分くらいは…いや、半分以上は本気なんだけれど。
「がっくん」
「なんだよ」
「好き」
「はいはい」
「だーいすき」
「分かったって」
「ぎゅーしたい」
「後でな」
「ちゅーして良い?」
「……時と場を考えろ馬鹿」
「じゃぁー、後でねっ」
「…本当にしょうがないやつだな、お前は」
「やった、早く終わらせて帰ろっ!」
「……あぁ、やっぱりそーだったんですね」
テンポ良く続く鈴橋らの会話に突如加わったぼんやりした声に弾かれたように2人仲良く顔を向けると、その先には寝落ちしていた筈の班乃の寝ぼけ眼が自分達へと向けられていた。
「いやっ、違うんですっ!今のはっ、そのっ…植野っ!」
「…………」
「…うえの?」
「……えっと」
「……………」
焦る鈴橋とは違い、無表情に植野を見つめる班乃と、その視線を受けた植野の顔には罰の悪さが滲み出ている。
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