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- 24章 -
- 普通 -.
しおりを挟む兄の否定できない厳しい言葉に反論の余地はない。
その通りだ。誰かにこの人を切り捨てろと言われて、じゃぁ、そうしますなんて出きるわけがない。自分で決めるしかないんだ。
それが、大切な人の中の誰かを切り捨てる事になってしまったとしても。
それはそうとー
「聖は…辛かった?」
「ん? なにが?」
「俺と、父さんを切り捨てた時….」
市ノ瀬に対し自分はどうすれば良いのかまだ気持ちの整理はつかないままだが、それと同じくらい兄の気持ちがずっと心に引っ掛かっていた。
あの状況では離別する選択を取らざるを得なかった、のは分かる気がする。でも、それでも少しだけ…切り捨てられたと言われたのは堪えた。
かくれんぼをしよう。
そんな最後の言葉を交わしたあの時、兄は一体どんな顔をしてたのだろうか?自分の意思が及ばない何かが思い出すのを頑なに拒んでいるように、その表情は思い出せない。
その事が、余計に霧をかけていく。
驚いたように目を丸くし中途半端にグラスを浮かべ動きを止めた兄が、途端に小さく柔らかな息を吐いた。
「なにを言ってるの。そんなの当たり前でしょ?今も昔も、聖は誰よりも、大切な弟なんだから」
顔の横に持ち上げられたグラスに氷がぶつかり、カランと透き通った音が響く。それは溶けた氷と同じように、心の中のモヤを少しずつ溶かしていく様にも感じられた。
「…そっか。ありがとっ!俺も聖のこと、ちょー大好きっ!」
「ありがとっ!」
悲しそうで辛そうな、そんな色を含んだ笑顔できっぱりと言いきった兄のその言葉に安心感を覚えた。
そんな顔をさせてしまったのに、辛い決断をさせてしまったのに酷い話かも知れないけれど、それだけ自分の事を大切に思ってくれていたんだと思うと沸き上がる喜びを止めることはどうしても出来なかった。
「でも、そっか。…どんなに辛くても我慢してでも、なにかを切り捨ててでも、それでも一緒に居たいって思える事が幸せって事、だよね?」
「そうそう、まぁ、幸せの定義なんて人其々だけどね。それに同性と付き合ってますって、別に馬鹿正直に言わなくても良いじゃない。辛い辛くないはあるけど、大人なんて誰しも言えない事の1つや2つ、隠してながら生きてるもんだしね」
兄の言う事は、概ね理解出来たと思う。
凄く、納得も出来る話だと思う。
でも、頭で理解しても心が着いていけない。
都合良い話かもしれないけれど、やはり大好きな人達に嫌われる覚悟も、切り捨てる覚悟もまだ出来ない。
でもー…
「聖、俺はねぇ、自信を持って誰かに好きだよーって言える人、凄く素敵だと思う。聖の友達か、その友達を好きになった人が同性だったって話なんだろうけど、その友達が俺の友達であっても家族であっても、俺はその人と幸せになって欲しいって思うよ」
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