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- 24章 -
- 普通 -
しおりを挟む「なんで…なんで母さんはあんな事したんだろ。それなのに名前だって…なんでわざわざ同じ漢字をー」
「………」
「っ、ごめん!」
『最低だっ。最低だっ!』
なんで、どうしてと言う思いが無意識に口をつき、配慮のかけたその発言に遅れて気がつき慌てて謝罪を口にした。
被害を受けた本人に、“ 貴方はどうして被害を受たんですか? ” と当時を起こさせ考えさせる様な問いをするなんて傷口を抉るようなものだ。
黙り込みお酒をちびちびと口に運ぶ兄の表情がとても沈んで見え一気に罪悪感が胸を押し潰す。相談させてもらってる立場のくせに、こんな事を言うなんてー
「…ごめんっ、嫌なこと聞いて」
「いやいや、大丈夫。ちょっと考え事してただけだよ。まぁ、そうだなぁー…名前の事は俺も知らない。裕子さんの行動の理由は…多分色々あるんだろうけど…そうだね。1番は俺が普通じゃなかったから」
「えっ?」
「でもただ1つ確実に言えるのは、裕子さんは良い母親になろうとしてくれてた、って事かな」
「………」
空になったグラスに再びアルコールを注ぎ、1口含んだ月影は幸せそうな笑みを浮かべた。
『…どうして?』
学園で再開した時もそうだった。酷い事をされたのにも関わらず母に対して必ず好意的な言葉を口にする。そんな兄のおかげで自分も母を嫌う事なく居られるのかもしれない。
『なんでそんなこと言えるんだろう?酷いことされたのに…でも、普通じゃないってなに?』
虐待はどんな理由があっても擁護される事じゃない。
「…別に、聖は普通じゃないなんてー」
「普通じゃないの。俺は」
被せる様に強くきっぱりと言いきった月影の言葉に二の次が告げなくなる。確かに兄は普通じゃない。でもそれは悪い意味じゃない。
大人なのに子供みたいにあんな全力ではしゃぐ人は見た事がなかったし、男性で手入れの行き届いた長い髪も珍しい。平均よりも高い身長はとても目を引くし、20半ばで自営業を営んでいる人もあまり居ないだろう。責任ある社長と言う立場で頻繁にふらふら自由に出歩くのも、卒業後何年も母校に入り浸り謎の人を演じて楽しむ人もそうそう居ないと思う。
というか、最後のに至ってはいないと思う。
そんな自由人だけれど会社から頻繁に掛かってくる電話口では口調柔らかくも人が変わったように厳しい事も言っていたりと少し怖いと思う事もある。けれど部下からからかわれて楽しそうにしていたり、完徹で仕事を片付けた後そのままハイテンションで会社飲みしたりと、ちょっと怖くもその仲の良さや信頼関係が伺える。
奥さんの話をあんなに堂々とのろ……好きだと公言し誉める大人は見た事ないし、自分に酷い事をした人の実子であり兄の存在すら忘れていた弟にでさえこんなにも愛情を向けてくれている。人の感情に機敏で、なにも言わずとも汲み取ってくれる凄さもある。
そんな誰よりも普通ではない兄の事は、誰よりも尊敬してるし、憧れている。
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