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- 24章 -
- 普通 -
しおりを挟む弟と並び鍋の用意をしながら、隣で鼻唄を歌う異母弟に意識を集中させる。
文化祭の後、日々不安定になっていく弟の感情を感じとる事が出来なかった。まるで全身全霊で全てを拒絶し包み隠してしまっているように。
不幸の始まりでもあり苦しめられる事の方が多かった煩わしい力だ。せめて大事な人の手助けになるくらいしてくれ。
しかしそんな悪態をついた所でなにかが変わる事はなかった。
自分を救い出してくれた弟が、自分を見つけ出してくれた弟が困ってるなら、今度は自分が守ってあげたい。
それなのにー…
不甲斐なくて、悔しくて。
そして今日。相談があると持ち掛けられ久々に会った異母弟は、相変わらず何かに悩んでいるようなのだけれど…なんだか、この前までとは違う気がする。
というか、全然違う。
全く感じ取る事が出来なかった時と違いふんわりと流れ込んでくるそれは、何かに対しとても幸せで嬉しいという気持ちと、反面その何かに対し困惑や戸惑いも感じ取れる。
『なんだろこれ。……落ち込んでるって訳じゃなさそうだけど……うーん……ん? 誰だろ、この人。…教えてよ……えっ、駄目なの?』
「聖?」
「…ぅん? なぁに?」
「いや、ぼんやりしてたから大丈夫かなって」
「そうだった??ごめんごめん、」
どうやら集中しすぎてしまっていたようだ。
相談があると呼び出されたが故に、ついつい心が早ってしまった。
「豆乳鍋にしようと思ったけど、豆乳味噌も良いなぁ~って。調味料そろってるし、キムチ鍋も捨てがたいなぁーとか色々考えてたら、ちょっと真剣になっちゃった」
「なんだ、そんな事か…よ。いや、大問題だな、それはっ!?」
「でしょー?鍋ってギリギリまで悩めるから罪深いよねぇ」
2人並んで材料を切り鍋や皿やと準備しながらの討論の末、今日は真ん中をとって豆乳味噌に決定した。
少しアクセントが欲しいとなり豆乳より豆乳味噌、決め手は持参したおつまみにキムチや唐辛子の使われたピリ辛系があった事だった。
滞りなく準備も進み、仲良く鍋を囲み、滞りなくお酒も進む。
相談があると言っておきながら弟の口からそれが出てくる事はなく、順調に減った鍋には締めのほうとうがよい具合に煮たち始めている。
当たり障りない会話を楽しみながら夕食を共にする和やかな時間は心休まる居心地の良い大好きな時間ではあるけれど、楽しそうにする裏でずっと渦巻いている感情が流れ込んでくるのは中々にもどかしい。
空になった焼酎瓶を片し、ちょっと奮発した日本酒を冷蔵庫から取り出した。
グラスに注ぐと瞬間、木系の香りがふんわりと立つ。
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