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- 24章 -
- もう一つのキーホルダー -
しおりを挟む「その子のお兄さんが、頻繁に遊びに来るんですよ。お酒が好きな方なので」
「あぁ、そういう…でも、 理由は分かったけどー…飲んでないでしょうね!?保護者が居る所なら良いけど、居ないでしょ?」
「勿論ですよ。そんな非行に走るような子ではないですし、むしろ少しくらい悪い事しても良いのではと思うくらい良い子ですよ。安心してください」
「そう?明がいうなら信じるけど……あんたも飲んじゃ駄目だからねっ!育ち盛りの体に悪いし、犯罪非行は許しませんよっ!!」
ビシッと人指し指を立てて自分に差し向けた姉に一瞬言葉が詰まるが、何事もなかったかのように笑顔を浮かべた班乃は何食わぬ顔で“勿論です”と返した。
酒、煙草もしないし興味もないけれど、人によってはそれよりも質の悪い事をしてきたのだ。勿論その事は姉含め家族全員知らない。
知ってるのは巻き込んでしまったその相手か、植野くらいだ。
姉の態度に、口が裂けても絶対言わない、墓場まで持っていこうと改めて心に決めた瞬間だった。
「あ、今日はお寿司だそうですよ」
「お寿司っ!?」
「特上。奮発したってLINE来てます。今日はお祝いですね」
「やったぁー!!お寿司好きーヾ(´∀`*)ノ」
退院後1発目はなんのネタを食べようかと一人言のようにネタの名前を呟き続けるのを横で聞きながら、本当の本当に無事に退院出来るんだとなん度目かも分からない安堵が沸き上がる。
病室に着き忘れ物がないか確認するその肩に、そっと手を置いた。
温もりがある。
心臓も動き
血も流れ
彼女を生かし
彼女の命そのものが
今確かにここにある。
「姉さん」
「なぁに?」
「本当に、退院、ありがとうございます」
「……うん。ごめんね。ありがとうっ!」
それを言うなら、おめでとう、なんだろうけど。
祝う気持ちよりも今ここに無事で居てくれる事への感謝が勝り自然とそんな言葉が口に出てしまった。そんな不自然な言葉を訂正するでもなく笑って受け止めてくれたのは、身近で自分を見守って居てくれた姉だからこそだろう。
「ギューしてあげようか?」
「結構です」
「秒なのかなしっ!!じゃぁ、手繋いで帰る?」
「結構です」
「冷たっ!!」
「手続き終わったみたいですし、馬鹿なこと言ってないで帰りますよ」
「うん!」
両親と合流し駐車場へ向かう最中、足を止め一度病院を振り返った。この場所で、救われる命もあれば失くなる命もあるだろう。手を尽くしてもどうにもならない事もあるのは、身に染みて分かっている。それでも姉の命を救ってくれた病院に、そこで働く医療従事者の全ての方々に、感謝と敬意を込めて深々と頭を下げた。
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