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- 24章 -
- もう一つのキーホルダー -
しおりを挟む「ってかさ!」
「はい?」
「私、退院じゃん!!」
「…えぇ、そうですよ」
「って事は、病院食から解放されるってことよね!?美味しいもの食べれる!!明のご飯食べれる!」
「美味しいって言ってくれたのは嬉しいですけど、好きなご飯作れる!!って言ってくれた方が僕としては嬉しいですね」
「えぇー…そんなこと言われても…明のご飯が美味しいのがいけないんだと思うのっ!」
「僕のせいにしないでくださいよ。いつまでも甘えてたら困るの自分なんですからね」
「えぇー!?きびしぃー!!」
別に甘えてなんていない。
『いや、甘えてるかも…?』
弟に夕食作りを頼むようになったのは、あの事故の後殆んどの時間を部屋で閉じ籠り過ごすようになってしまった弟を引っ張り出す為だ。
元々料理が好きだった事を口実にして、帰宅が遅くなる時のある両親に変わり作ってもらおうと思い付いたのがきっかけだった。
のだが、今は単純に美味しいから食べたい、になってしまってるのは否定できない。
それにとっくに閉じ籠りから脱しているのだから、作り続けてもらう必要はもうないのだ。
『今を受け入れて進んでく時かぁ…』
「そんなに言うなら…やってみようかなぁ、料理」
「……………えっ?」
「え?って、明が言っ……たんじゃ、ない」
「…えっと、まぁ、前向きなのは良いことですしね」
『ねぇっ!なんでそんなにしょんぼりしてるのっ!?』
「頑張ってください。大丈夫です、直ぐ出来るようになりますよ」
「うん……」
応援する言葉を口にしながら、その手元は無意識かもしれないが意味もなくキャップを開けたり閉めたりを繰り返している。
哀愁ただよう笑みを浮かべながら、静かに動揺してるのはかなり珍しい。
『そんなはずない……』
「私の弟がこんなに可愛いわけがないっ!!」
「はい??」
料理が好きだから?
違う
きっと
必要とされなくなっていく感じが
寂しいんだ。
…多分。
「ううんっ!!なんでもないっ!!頑張るからさ、取りあえず最初はー」
「最初は?」
「レクチャーお願いします!先生っ!」
「……しょうがないですね、せめて食べられる物であって欲しいですし」
『とか言いつつ嬉しそうな顔しちゃってもうっ!本っ当可愛いんだからっ!』
「じゃぁ、これから宜しくっ!」
「はい」
最初は思い出もろともあの日までの自分を消そうとしたのかもしれないし、そうではなかったのかもしれない。本心は分からないけれど、事実今の弟からはあの事故以前の面影はあまり感じられない。
けれど…
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