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- 24章 -
- もう一つのキーホルダー -
しおりを挟む「なにしてるんですか?」
「なにしてんの?」
「え?なにって……」
それは、散歩や読書を楽しむ人々が緩やかな時間を過ごす病院の中庭で、兄妹が仲良く声を揃えた瞬間だった。
後30分もすれば退院手続きで両親が来る。班乃ともう1人の姉、長女はこの近くで用事があった為一足早く病院へと足を運んでいだ。
病室に居る筈の人物の姿はなく、看護師に話を聞くとおそらく中庭だろうという事で探しに来れば、その予想通り中庭に居たのだがー
「ヨガだよヨガ、と見せかけたストレッチのようなヨガ。ずっと出来なかったから体が固くなっちゃってさぁ。あ、ちょっと背中押してくれない?」
「どっちですか…いや、まぁ、元気そうなのは何よりなんですけど」
退院出来るくらい元気になったのは良かったのだが、驚く程普段通りでちょっと引く……早く早く、と手招きする次女の背後に回った班乃は要望通りその背中をゆっくりと押していく。
「あー…良い、この延びてる感じ…気持ち良い~」
「そうですか。良かったですね」
「…私この後用事あるから。取りあえず荷物だけ運んどく。纏めてあるでしょ?」
「あるよー」
「あ、それなら僕がー」
「いいわよ。たいした量じゃないし。あんたはこいつの相手してて」
『…この親切なようでぶっちゃけ面倒を押し付けられたような感じはなんなんでしょう…まぁ、良いですけどね。いつもの事ですし』
もっと強くー!と催促する声に答えつつ、颯爽と病室へと去っていく長女を見送り班乃はため息をついた。次女に言われるがまま手伝いをしながら、時折気持ち良さそうな声を上げストレッチを続ける姿と、血行の良さそうな肌を見ると改めて安堵する。
病室のベッドの上で様々な管に繋がれながら真っ白な顔をして動かない姿に途轍もない恐怖を感じたあの時が嘘のように思える。
「じゃー次はー…はいっ!」
「…はいって」
「良いじゃん、手伝ってよ」
「…ここ、外なんですけど」
「なに?恥ずかし?良いじゃん、兄妹なんだから!」
「…………」
両足を広げ座り込み両手を差し出してくるマイペースな姉の姿に溜め息しか出ない。仕方なく目の前に同じような体勢で座り込み、その両手を取った。
「ありがと!じゃぁ、いくよー、せーのっっ」
掛け声と共にお互いに引っ張りあう。
『元気になったらなったで、大変なこともありますけど…』
自分の手を掴むその手が、力強く引っ張るその力が、当たり前にあって失くすかもしれなかった、生きる人だからこそ出来る一つ一つの動きそのものが、本当に元気に退院できるんだと、何度も何度もしつこいくらいに愉悦を感じさせた。
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