Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
619 / 1,151
- 24章 -

- クレープ -

しおりを挟む


カイロを握った手をポケットに突っ込み足早に進む。多分、甘えるの意味が違ったのかもしれない。

『甘えるの、難しい……』


「ほらっ!なにしてんの!?早く帰るよっ!!」


半ば逆ギレ気味に自分の少し後を歩いている市ノ瀬へと声を張り上げる。恥ずかしすぎて、どんな顔されてるかも怖くて見ることが出来ない。

『取り敢えず今日はバイバイして、気持ちリセットして、明日にはなんでもないようにー……』


「……………」

「あぁ。確かに、これは暖かいな」

「……ぅん」


ポケットの中は、いつもより窮屈だ。


そのまま、口数も少なく夜の道を2人並んで歩く。

『夜で良かった…』

人通りも少ないし、暗いから誰かに見られても分からないだろう。2人のことも、自分が一体どんな顔をしてしまってるのかも。

ポケットの中で繋ぎあう温もりをじっくり味わう余裕はなく、緊張感漂う中それでも満たされてくのを感じる。

そんな幸せな時間も自宅へと到着し終わりを告げた。ポケットから手を出すと急激な寂しさが訪れ、両手を握り合わせ寒いだけですとアピールしながら名残惜しさを誤魔化した。


「カイロ、そのまま持ってってよ。まだ暖かいし。その、ありがと、送ってくれて」

「あぁ」

「じゃぁ、気をつけて。また明日」


顔の横まで持ち上げた手を左右に振り別れを口にする安積だったが、市ノ瀬はなにか考え込んでるような表情で安積を凝視したまま動かない。

なにかあったのかと声をかけようとした時、不意に持ち上げられた市ノ瀬の手が上げたままだった安積の手に重ね合わされ、そのまま軽く握られる。

そして確認するかように、2度、3度と繰り返し握り直された。


「……えっ、えっと、なに?」


突然の事に振りほどくことも握り返す事も出来ず、かろうじてその意思を確認する言葉を吐くのが安積の精一杯だった。

ぎゅっと力強く握られたかと思うと、市ノ瀬は笑顔でも無表情でもなく、意識的に表情を押さえ込んで居るようななんとも言えない顔で、けれど反らすことはせずジッと安積の目を見つめる。


「えっと、睦月?どーかした??」

「可愛げなくてごめん、頑張るよって…」

「えっ? うん?」


たまりかねて訪ねると、先程の安積の言葉を持ち出してくる。何故今それを?と思うのだけれど、それよりもそれがどうかしたのだろうか?意図が掴めないまま一先ず市ノ瀬の次の言葉を待った。


「それってさ」

「うん?」

「俺の為に可愛くなりたいって事?」

「………」

「……………」

「うるせぇよっ!」

「なんでだよっ!?」


『いちいちそんな事確認してくんなばかっ!』

あの時はただ悲しい思いさせないようにとしか考えてなかったけれど、裏を返せば今市ノ瀬が言ったそのままで。遅ればせながら気がついて一気に顔に血液が集まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

ヤンデレでも好きだよ!

はな
BL
春山玲にはヤンデレの恋人がいる。だが、その恋人のヤンデレは自分には発動しないようで…? 他の女の子にヤンデレを発揮する恋人に玲は限界を感じていた。

処理中です...