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- 24章 -
- クレープ -
しおりを挟むカイロを握った手をポケットに突っ込み足早に進む。多分、甘えるの意味が違ったのかもしれない。
『甘えるの、難しい……』
「ほらっ!なにしてんの!?早く帰るよっ!!」
半ば逆ギレ気味に自分の少し後を歩いている市ノ瀬へと声を張り上げる。恥ずかしすぎて、どんな顔されてるかも怖くて見ることが出来ない。
『取り敢えず今日はバイバイして、気持ちリセットして、明日にはなんでもないようにー……』
「……………」
「あぁ。確かに、これは暖かいな」
「……ぅん」
ポケットの中は、いつもより窮屈だ。
そのまま、口数も少なく夜の道を2人並んで歩く。
『夜で良かった…』
人通りも少ないし、暗いから誰かに見られても分からないだろう。2人のことも、自分が一体どんな顔をしてしまってるのかも。
ポケットの中で繋ぎあう温もりをじっくり味わう余裕はなく、緊張感漂う中それでも満たされてくのを感じる。
そんな幸せな時間も自宅へと到着し終わりを告げた。ポケットから手を出すと急激な寂しさが訪れ、両手を握り合わせ寒いだけですとアピールしながら名残惜しさを誤魔化した。
「カイロ、そのまま持ってってよ。まだ暖かいし。その、ありがと、送ってくれて」
「あぁ」
「じゃぁ、気をつけて。また明日」
顔の横まで持ち上げた手を左右に振り別れを口にする安積だったが、市ノ瀬はなにか考え込んでるような表情で安積を凝視したまま動かない。
なにかあったのかと声をかけようとした時、不意に持ち上げられた市ノ瀬の手が上げたままだった安積の手に重ね合わされ、そのまま軽く握られる。
そして確認するかように、2度、3度と繰り返し握り直された。
「……えっ、えっと、なに?」
突然の事に振りほどくことも握り返す事も出来ず、かろうじてその意思を確認する言葉を吐くのが安積の精一杯だった。
ぎゅっと力強く握られたかと思うと、市ノ瀬は笑顔でも無表情でもなく、意識的に表情を押さえ込んで居るようななんとも言えない顔で、けれど反らすことはせずジッと安積の目を見つめる。
「えっと、睦月?どーかした??」
「可愛げなくてごめん、頑張るよって…」
「えっ? うん?」
たまりかねて訪ねると、先程の安積の言葉を持ち出してくる。何故今それを?と思うのだけれど、それよりもそれがどうかしたのだろうか?意図が掴めないまま一先ず市ノ瀬の次の言葉を待った。
「それってさ」
「うん?」
「俺の為に可愛くなりたいって事?」
「………」
「……………」
「うるせぇよっ!」
「なんでだよっ!?」
『いちいちそんな事確認してくんなばかっ!』
あの時はただ悲しい思いさせないようにとしか考えてなかったけれど、裏を返せば今市ノ瀬が言ったそのままで。遅ればせながら気がついて一気に顔に血液が集まる。
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