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- 24章 -
- クレープ -
しおりを挟む市ノ瀬の言葉の意味は気になるところだが、聞いても教えてくれない気しかしない。
『ってか、時々難しい言葉使うよなこいつ…』
なにを言われたのか分からないのは少し悔しいけれど、それよりも感心の方が勝ち追求する気持ちも自然と薄れていった。
「…寒いな」
「え? あぁ、そうだね。もう12月だもんなぁ」
マフラーに顔を埋めながら目を細め、寒さから自然と出てしまったかのように呟いた市ノ瀬を見上げた。
風に揺れる髪の隙間からのぞく微かに赤くなっている耳に申し訳なさを感じてしまう。本当は早く帰って暖まりたいだろうに。それなのに当たり前のように自分の家まで送り届けてくれる。そんなことがいつの間にか自分にとっても当たり前になっていて…
市ノ瀬を思えば帰って良いよと言うべきだと前々から何度も感じてはいる…それでも一緒に居るのが心地よくて、少しでも一緒にいたくて、そんな自分の願いを優先してしまっている。
良いのだろうか?こんな我が儘で居てしまって。
「なぁ」
「ん?」
「えと……」
「なんだよ?」
「俺、迷惑、かけてない?」
「なにが?」
意味が分からないと言った表情で安積を見やり、足を緩め話を聞くために真隣へ寄り添うように並ぶ、その顔が見れない。
その思いやりが罪悪感を増長させていくと同時に、その優しさで伝わってくる“大切にされている”という実感が、どうにもくすぐったくて顔が見れない。
「その、色々と。だって、ほら…寒いし、さっさと家帰りたいだろうし。なのにいつも送ってくれて…俺は…嬉しいけど、いつも申し訳ないなぁって、思って」
「…お前、本当にどーでも良いことで悩むよな」
「どーでも、良くはないだろ」
「良いよどーでも」
不満そうに溜め息をつかれれば、流石に少し悲しい。自分なりに割と本気で気に止んでいるのに。こんなこと続けてる内にいつか嫌になって離れていってしまうかもしれないという不安だってある。
けれどそれ以上言葉を続けることが出来ず、安積はただただ地面へと視線を落とし作業のように足を進めた。
その足を止めたのは肩に置かれた市ノ瀬の手だった。見上げた先にある目は、どこかあの夜の観覧車を思い出せる。
「俺は俺がしたいことしかしないって、前に言っただろ。俺がしてる事でお前が気に止む必要はないし、嬉しいって思ってんなら素直に甘えとけ。そっちの方がー」
安積に手を伸ばし、風の遊びで目にかかった前髪を優しくのけた市ノ瀬はなぜか悲しそうに笑った。
「その方が、俺は嬉しいー」
その言葉になにも言えずにいると、手が離れ再び帰路を歩き始めた。そんな市ノ瀬に安積も続く。
市ノ瀬の悲しそうな笑顔の意味を考えながら。
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