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慰弦

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- 23章 -

- 終幕 -

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「さて、いつまでも立ち話しして遅くなるのもあれですし、そろそろ帰りましょう」

「そだね!クレープクレープっ!!」

「なに食おうかなぁー….明のオススメは?」

「チリトマト」

「うーん…辛い気分じゃねぇな」

「至極残念です」


駅へと歩きだそうとしたその時、班乃のポケットから着信音が鳴り響いた。出ても??と視線で問い2人が頷いたのを見てから応答へとスライドさせた。


「はい。…今ですか?学校の近くの公園です。…そんなこと言われても……良いから落ち着いて。なにを言ってるか分かりまーー」


歩きながら通話をしていたその足が声と共に止まると、前を歩く2人も立ち止まり心配そうに班乃の様子をうかがった。

困惑した表情を浮かべたまま、2人に頷きのみで返し通話を続ける。


「えぇ、分かりました。…良かったです本当に。…いえ、時間内に行けないと思うので。はい、無理はしないようにとお伝えください。あと、おめでとうと…はい、はい、その時は一緒に。ではまた」


通話を切った班乃は、茫然自失といった様子で手に握られている携帯を見つめ続けていた。おめでとうと言っていたし、悪いことではないのだろうけど…少し迷った末班乃へと近づくと、それに気がつきゆるゆると顔を上げた。


「あっきー?大丈夫?どーしたの?」

「えと…退院が、決まったようです」

「……え?えっ!?退院っ!?それって、もしかしてもしかしなくてもお姉さんっ!?」


安積の問いに状況がまだうまく飲み込めてないと言った顔で、班乃はその吉報をもたらした携帯を意味もなく眺める。


「事故後暫くは、目が覚めてはまた直ぐに昏睡状態になって…数日経ってからまた目覚めてを繰り返してたんですけど。最近は徐々に起きていられる時間も長くなってきてて…それで、もう大丈夫そうだと」

「ホントっ!?じゃぁ!!そのー…えっと…」

「「……………」」


『…まったく』

なんとも歯切れの悪い言い方になってしまっているのは、返された返答がもし芳しいものでなかったらと恐れているのだろう。小さくため息をつくと言いづらそうにしている安積に変わり市ノ瀬が言葉を続けた。


「後遺症とかは?」

「あぁ、それも今の所は見受けられないので、恐らく大丈夫だろうと」

「そうか。良かったな」

「そう、ですね…もう駄目なんじゃないかって…思ってたので。凄く、嬉しいはずなんですけど、なんだか、あまり実感が沸かなくて……」


その言葉通りただ淡々と話し吉報をもたらした携帯を再び意味もなく眺める班乃と違い、安積はというとー


「良かったぁぁぁーー!!良かったじゃん!!ホンッット良かった!!あっきー!退院だってよっ!?良かったじゃん!!お姉さん大丈夫だって!!良かったねっ!!!」


自分の事のように喜び跳び跳ねながら感極まった様子で班乃の両肩を掴んだ。あまりの勢いによろけた班乃は咄嗟に握っていた携帯を放り出すと安積の腕を掴み、そして飛んでった携帯はというと…市ノ瀬がその行方を見守りー
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